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同室の人類

部屋の鍵を開け、扉を開く。

真っ先に目に入ったのは白と黒で作られた、前世で言うヴィクトリアンメイド服に似た服を着た、まさしくメイドだと思われる人が扉から少し離れて見えた。

そして、扉の目の前には女子、というよりは女性、と言ったほうが近いだろうか。

身長は160cmから165cmほど、俺より少し小さい人族がそこにいた。

その相手と目が合い、少し微笑んで見えた顔が、何かに気が付き、視線が下に向かい、笑みが消えた。

一瞬止まった思考を動かし、反射的に扉を閉めた。

ここで下手を打つのはまずい。もしも相手が貴族であったら打ち首になる可能性まである。

扉越しに、少し待ってほしい、と声をかけ、急いで服を着る。

肌着とズボンだけはいて、少し息を整えてから、再度扉を開ける。


そこにいるのは、顔色一つ変えない無表情のメイドと少し顔を赤くした女性だった。

先の失礼を詫びるとともに、何の用かを聞く。

女性が答える。


「今日から同室になります、獣人族のアクト・フィ・イズラといいます。」


少し首をかしげながら、右手を胸に当てながらそう言った。

――男なのか?

敬語すら忘れて、口を滑らせた。

アクトと名乗った人は、よく間違えられます、とカラッと笑いながら言った。

混乱はあるが、ひとまず部屋の中へ招き入れ、お茶を出すため湯を沸かす。


寮生活において、すべての部屋に最低限のキッチンが設けられていた。

それもシャワーと同じく魔法具で出来た高級品で、2口のコンロやウォーターサーバー的な魔法具が置いてあり、問題があればすぐに変えを貰える便利なもの。

換気扇的なものすら魔道具でどうにかしており、1部屋の設備だけでも孤児院の1月よりも金を使っていることがわかる。

その上で、貴族であっても最低限度の生活能力を身につけるべき、という理由でこの学園内のすべての寮において使用人を付けることを禁じている。

そのため、お茶やサンドイッチなど、簡単なものであれば部屋で作れるようになっている。

とはいえさすがに冷蔵庫のようなものはなく、肉や野菜を保存したい場合は寮の1階にある管理室内にある冷蔵室に届け出をしたうえで預ける形になる。

無償な上、普通の貴族はあまり使わないらしいので孤児院でも人気だった料理の手腕は十分に振るえることだろう。


先ほどまで浴びていたシャワー然り、コンロやウォーターサーバーなども迷宮都市ならではと言えるだろう。

少なくとも、魔力検査の時に王都で泊まった宿はこんな設備はなかった。

本来であれば貴族向けだからなのか、否普通に考えて下手な貧乏貴族はこの部屋よりも不便な暮らしをしているだろう。

院長たちがひそひそと話していた事に関わっているのか、この設備が搭載されたのは5年前だという。

シャワーを浴びているときには疑問に思わなかったが冷静になって考えるとどう考えてもこの設備はおかしい。

いや、おかしいのは初対面で裸を見せた俺の方なのだろうか。

現実逃避代わりの思考を打ち切る。

おかしな方向へと考えが飛躍し始めたため、これ以上恥をさらさないためにも落ち着かなければならない。


混乱した頭を冷静にするために頭を回しながら湯を沸かし、ティーポットに茶葉を入れ、お湯を注ぐ。

少しの間蒸らして、スプーンでそこからゆっくり回す。

茶越しを用意して、2回から3回に分けて注ぎ、3人分のお茶の完成だ。

と、ここまでやってやっと気が付いたが、俺は未だ上半身裸である。

とはいえ時間を稼ぐには必要なので、そのままお茶を出して、風呂場に戻り着替えを済ませる。


着替えを済ませて、改めて謝罪をしたうえで、少しばかりの言い訳を添えておく。

シャワーの事や魔道具がここまで多いとは思わなかったため、はしゃいでしまった事を伝える。

そうすると相手も、こんな時間になってしまったのは申し訳なかった、と謝罪と、裸については気にしない、同室なのだから敬語もなしで、と言われてしまった。

とはいえ俺は孤児である。

それを言うと相手は、僕も単なる貧乏貴族だから気にせず仲よくしよう、と言ってきた。

貴族が自分のことを下げていることに驚きながら、後ろにいるメイドの人に目をやるとゆっくりと頷かれたため、ある程度は言葉を崩すことにした。

なぜ遅い時間になったのかを聞いてみたら、どうやら街の大通りで馬車が故障してしまったらしい。

そんなことがあるのかと思ったらメイドの人が横から暴走した馬が突っ込んできた、と教えてくれた。

なるほど、と納得をしながら労いの言葉をかけた所で、まだ名乗っていなかったことに気が付いた。


改めて名前と生まれを紹介し、2つ隣のハンスや、フィラソピアの話をした。

そこで気が付いたが、自己紹介の時、獣人族であると名乗っていた。

思えば家の孤児院には獣人はいなかった。

だからこそ、獣人族についてはほぼ伝聞な上、見かける程度で話したこともない。

しかしながら獣人族は一目でわかる人が多い。

なぜなら、耳が上についていたり、羽が生えていたりと、獣の特徴を持っており、体格的にも大きくなりやすいためわかりやすく、はっきりとした違いが目に入る。

それについて聞いてみると、僕は鳥系の獣人族で、今は羽を閉まっているんだ。と教えてくれた。

そんなことが出来るのか、と驚いていたら出来る人とできない人がいる、と教えてくれた。

何かしら明確な区別があるらしく、また今度時間が空いた時に教えてもらえることになった。


その後も少しずつ話を広げていき、どうやら彼、アクトは獣人族の国であるゼラファタルから来ている留学生らしい。

その割には言葉が流暢だと思ったら親が外交団の責任者らしく、父親の仕事を学ぶ見習いとしてこの国にやってきたのだという。

滞在歴は約4年間、10歳のころからステイアイズで暮らしているとのこと。

外交団の責任者ということはかなり上級な貴族なのでは?と思い爵位を聞いてみるとステイアイズだと伯爵に当たる地位であるという。

ステイアイズでは、日本によくある五等爵ではなく、7つの爵位に分けられている。

上から大公、公爵、武伯爵、文伯爵、子爵、男爵、騎士男爵の7つだ。

ここでいう伯爵とは武伯爵と文伯爵のことであり、役割分けされているだけで権威や爵位の高さは変わらない。

つまり、アクトは爵位的にはこの国で3番目に偉い貴族、ということになる。


なぜ、そこまで爵位の高い貴族が俺のような平民と同室なのか、それ以前にやはり打ち首になるのか、貧乏貴族って嘘じゃん、など驚きで固まっていたら、アクトが気にしなくていいよ!むしろこっちからお願いした、とこうなるに至るまでの説明をし始めた。

どうやらアクトは獣人の国では特殊な立ち位置にいるらしく、あちらの学園では十分な学びを得られないと判断したらしい。

特に貴族同士の政治的な苦労が絶えないらしく、いっその事国外の学園へ留学することにして、さらに政治から遠ざかるために外交官の仕事の見学という名目で平民の暮らしを知る、という建前を作り平民と相部屋になるようにしたのだとか。


貴族でも苦労するようなことがあるのかと考えていたら、眠気が襲ってきた。

元々健康のために夜は少し本を読んでから寝ることを習慣付けていたことや、しばらくは馬車の旅をしていたため熟睡することができなかったことなどが祟ったのだろう。

ついついあくびが出てしまった。

アクトは、夜中に到着したことを改めて詫びながら、自分もシャワーを浴びて寝ることを告げ、先に寝ていてほしいといった。

個人的にはもう少し話をしたかったが、これ以上話を続けるのも他の寮生への迷惑になると考え、その日はベッドに入り就寝した。

なぜ使用人禁止だと言われている寮の、しかも男性寮の中に、メイドが居たのか、という重要な部分を聞き忘れたが、まぁ後でゆっくりと聞けばいいだろう。

同室の人類が、おかしな者じゃないだけ十分だ。

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