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理不尽な要求

「…まさかあんなピンポイントで現れるなんて…!」

 アルフレッドも転移魔法が使えるとは思っていたが、誤算だったのは思ったよりも早く追いつかれた事だ。

「なんで私がいる位置がわかったんだろう」

 舞は転移した先の街の人目につかない場所で再び姿を変えると、指輪に向かって小さな声で呟いた。

 契約をしたからか、リントヴルムが指輪の中にいても会話ができるのはありがたい。声に出さなくても考えるだけで会話はできるのだが、そこは気分だ。


『マイの魔力は強すぎるからな』


「強すぎる?」

 自分としては姿を変えると同時に自分の魔力も悟られないように隠しているつもりだったのだが、やはりアルフレッドくらいになると無駄な努力なのだろうか?


『まず、魔力の色が違う。魔力測定の時に見ただろう?白色の魔力を持つものなど聖女以外にいない』


 つまり、自分で魔力を隠しているつもりでも、その隠しているのも自分の魔力なわけで…。

「あれ?私ってば無駄な努力を…?」


『やっと気づいたか。魔力の色がわかるものが見ればすぐにわかる。現に我もすぐにマイを見つけただろう?』


 本来であれば聖女がリントヴルムを思い浮かべた時点で、聖女がどこにいるのかもリントヴルムに伝わるが、舞にはそれがなかった。それなのにリントヴルムが舞を見つける事ができた理由が魔力の色だと言われ、舞はその場にしゃがみ込んだ。

「嘘でしょ…?それってもう何しても意味がないじゃない」


『こればかりは諦めるしかあるまい』


 冷静なリントヴルムの声に頭を抱えていた舞だったが、突然立ち上がる。

「…ねぇ、リン。魔力の色がわかる人ってどれくらいのレベルなの?」


『そうだな…。金の魔力を持つ者くらいでないと難しいだろうな』


(…ってことは、この世に三人だけ!)

 希望が見えたとばかりに喜ぶ舞にリントヴルムが首を傾げる。

「ねぇ、リンの属性って何?」


『我か?火と光だな』


 聖女の魔力と相性がいいのは光属性だからというのもあるのかもしれない。舞は再び歩き出しながらも周囲を警戒する。

 自分の今の姿は20歳くらいの男性の冒険者の姿だ。アルフレッドには意味がなくても、それ以外の追っ手の目は誤魔化せるはずだ。

「マイ様!」

 そう思っていた舞の耳に知っている人物の声が飛び込んできた。

(えっ…イリス!?)

 突然現れたイリスに舞が一瞬言葉を失う。だが彼女にわかるはずはない。

「…人違いでは?」

 やっとの思いでそう口にすれば、イリスが「いいえ」と首を振る。

「私がマイ様を間違えるはずはありません。急に城から姿を消されるなど…一体どうされたというのです?」

 今にも泣きそうな顔で詰め寄られては舞も対応に困ってしまう。

(いやいやいや、何で分かったの?)

 ここはしらを切り通すべきだとわかっている。こんなところにいるという事は、イリスはアルフレッドの命令で動いているはずだ。

「申し訳ないが先を急ぐので」

 そのままイリスの横をすり抜けようとした時だった。イリスの手が舞の腕をしっかりと掴む。

「え?」

「往生際が悪いですよ、マイ様」

 そう言ったイリスのもう片方の手には直系5センチほどの丸いペンダントヘッドのようなものが握られている。

 アルフレッドの瞳と同じ紫色の宝石がはめ込まれたそれが舞の方に向けられると、宝石が光り輝いた。

「この宝石にはアルフレッド様の魔力が込められているんです。マイ様の魔力を感知すると光って教えてくれるんですよ」

 イリスが種明かしをしてくれたが、それは聞きたくなかった…!と思ってしまう舞だった。

 しかもそれと同時に目の前に魔法陣が現れると、予想通りの人物が現れた。

「イリス、良くやった」

 冷たい声に舞の視線も自然ときつくなる。

(マティスもいるのね)

 それでも多分、アルフレッド達を振り切る事はできる。だが街中で無闇に魔法を使うのははばかられる。

(転移魔法…はだめね。イリスまで巻き込んでしまう)

 自分の腕をしっかりと掴んで離さないイリスの力に、本来はメイドではなく自分の護衛だったのだと今ならわかる。

(こうなったら…一か八か…)

 舞はイリスの手を振り解こうとするのをやめ、身体の力を抜いた。それに気づいたイリスが怪訝そうな表情をしたが、気にしている場合ではない。

 ふわり、と魔力が舞の身体を包んだと思うと、姿を変えていた魔法が解け、元の姿に戻る。

 つまり…この世界では珍しいスーツ姿に。

 当然周囲の注目を集める。しかもこの世界では珍しい黒髪黒目とくれば、物珍しさもあってあっという間に大勢の人が舞の周囲を取り囲んだ。

 これだけ注目を集めてしまってはうかつに魔法も使えないし、強制的に連れ去る事もできないだろう。

「…どういうつもりだ、マイ」

「とりあえずお話しましょうか?」

 笑顔でそう言った舞にアルフレッドの溜息が重なった。

 そのまま近くの比較的大きな宿屋に全員分の部屋を取ると、一番広いアルフレッドの部屋に集まる。

 強制的に連れて帰ろうとしたら、全魔力を使って転移魔法を使うと言ったのが効いたのか、アルフレッドも無茶な事をしようとはしなかった。

「マイの魔力でそんな事をされたら、世界の果てまで転移しそうだ…」

 それを言った時のアルフレッドの悔しそうな表情が忘れられない。

(魔力が多くて良かった…!)

 心の中で快哉を叫びながら、表情だけは冷静に舞はアルフレッドと向かい合った。

「それで、マイはどうして城を抜け出したんだ?」

「聖女として生きるつもりがないからだけど?」

 当たり前のことだと言わんばかりの口調にアルフレッドが声を荒げる。

「だったら何故…っ!」

「聖女としての訓練をしたのか、って?」

「そうだ、それ以前に城を出る前に話してくれれば…」

「無駄でしょう?」

 いっそ突き放すような舞の言葉と口調にアルフレッドだけでなく、イリスもマティアスも息をのむ。全員がまるで別人のような雰囲気の舞を無言で見つめるしかできなくなっていた。

(クレーム客を相手にしている気分ね)

 当の舞はそんな事を思いながら対応していたのだが、もちろん彼らにわかるはずもない。

「『元の世界に帰せるけど帰すつもりはない』なんて理不尽な事を言われたのに、素直に協力してもらえるとでも思ったの?」

 その怒りがあったから、自分も容赦なく彼らの望む自分の役割を切り捨てる事ができた。別に彼らに死んでほしいとか思っているわけではない。

 だがどうしたって自分はこの理不尽な状況を受け入れて、彼らの為に働くなんてできそうになかった。

「…だが、聖女の力がなければこの国は衰退の一途を辿るだろう」

 絞りだすような声でアルフレッドがこの国の現実を口にしたが、舞の答えはシンプルだった。

「そうなったらそれまでの国だったって事でしょう?もし、私がこの国に生まれ、この国で育ったなら、きっと聖女としての務めを迷うことなく果たしていたと思う。でも…私はこの国の人間じゃないもの」


 この世界にたった一人。

 誰も自分の事を知らない、知ろうともしない。


「マイ…」

 流石に掛ける言葉がなくて、黙り込んだアルフレッド達を舞の厳しい視線が貫く。

「二度と私の前に現れないで」

 その声と同時に白い光が室内に満ちると、光が消えた後に舞の姿はなかった。

 アルフレッドは追いかけることもできずに、呆然と立ち竦んでいた。

(俺達は…なんということを…)

 自分たちの都合で呼び寄せられた舞に、できるだけの事をしようと思った。

 だがそれは「自分たちにとっての好意」であり、舞にとって欲しいものではなかったのだ。その証拠に、舞は自分が贈った高価なドレスや宝石などはすべて城に置いていった。

 着ていたのは…この世界に来た時に着ていた元の世界の服だ。

「もう…手遅れなのか…?」

 勝手だと分かっている。それでももう一度彼女と向き合いたいと思った。

「…追いかけるぞ」

 顔を上げたアルフレッドの表情を見たイリスとマティアスが頷くと、今度は部屋の中にアルフレッドの魔力が満ちた---。

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