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情報収集(2)

 あの後、舞の元には様々な本や書類が運び込まれてきた。

「マイ様、こちらは王宮図書館に勤務しているイリスです。何かわからない事などがあれば彼女に聞いてください」

「身の回りのお世話もさせていただきますので、ご不便な事があればお申し付けください」

 そうして綺麗な所作で礼をする様子から、彼女も貴族なんだろうなぁ、なんて思っているとアルフレッドの声で現実に引き戻される。

「明日の朝食はご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」

 その言葉に舞が頷くと、アルフレッドは笑顔で「ありがとうございます」とだけ答えると、舞の邪魔をしないようにか、部屋から出て行った。

「…さて、と」

 舞は机の上に積み上げられた本と書類のうち、一番上に置かれていた一冊の本を手に取った。一番最初に確認すべきことがある。

 手に取った本の表紙には『セントクライス王国の歴史』と書かれている。

(よし、読める!)

 文字が読めて、会話も問題ないとなれば不安感は大分減る。

「紙とペンをもらえると嬉しいのだけど」

 こういう世界の紙は高い、という本を読んだだけの知識から若干遠慮気味に言ってみたのだが、イリスは「承知しました」というと、すぐに上質な紙の束とガラスペンのようなものを持ってきてくれた。

「…これって高級品だったりする…?」

 恐る恐るといったように紙とペンを指差した舞に、イリスは笑顔で「違います」と答えた。

「この国では庶民でも普通に紙とペンを使いますわ。確かに王宮ですから質の良いものを使用しておりますが、この程度であれば裕福な商人も普通に使用しているでしょう」

 どうやらこれに関しては遠慮する必要はないようだ。ほっと胸を撫で下ろす。舞は何かを思いついたのか、ガラスペンで紙に日本語で自分の名前を書いた。

「ね、これ何かわかる?」

 イリスに見せると、しばらく日本語を見ていたが、わからなかったのか「何かの記号ですか?」と逆に尋ねられてしまった。

(日本語は読めない、と)

「そんなものかな。変な事聞いてごめんなさい。この後だけど少し集中したいから一人にしてくれる?」

 大量に積まれた本と書類を少し避けて紙とペンを置くと、舞は椅子に腰掛けながらイリスにそう言った。

「かしこまりました。隣の部屋におりますので、いつでもおよびください」

 イリスが部屋から出て行くと、ようやく息がつけたような気がする。この世界に召喚とやらをされてから事態を把握する間もなくこの部屋まで連れてこられたからだ。

 舞はガラスペンにインクを吸わせると、まずは明日確認すべき事柄を書き出していく。


 元の世界に帰る事が可能なのか。もしくは帰す事は可能だが帰したくないだけなのか。

 魔法の習得方法

 この国における聖女の身分(あれば行動制限についても)


(とりあえず、帰れなかったときの事を考えて、自立できる準備もしておく必要があるかな)

 何事も最悪の事態を考えて動くクセがついていたのがこんなところで役立つとは思わなかった。

 少なくとも、こんな勝手に連れてこられた場所でいいなりになってやるつもりなんてさらさらない。

(帰れなかった場合…か)

 先ほどのやりとりからすると、例え帰れる方法があったとしても帰してくれる気はなさそうだと思いながら、目の前に積まれた本から必要な情報を紙に書き留めていく。

 この世界の文字を書くこともできるようだったが、わざと日本語で書き留めた。

 貨幣の価値、身分制度、聖女の役割、周辺国も含めた地理やそこに生きるもの達。

 ---そして、魔法。

 間違いなく自分がこの世界で生きていくために必要な力。魔法を使いこなせるようになれば、行動の自由度はかなり上がるはずだ。

 だが、自分は聖女で大きな魔力を持っていると言われても全く実感がない。

「それに使えと言われても、どうやって使ったらいいのかもわからないし」

 悔しいが、魔法の使い方だけは教えてもらうしかなさそうだ。持ってきてもらった本に初級者向けの魔法の本もあったが、読んでみてもなんとかなるとは思えない。そもそも書かれている内容がさっぱりわからないのだから問題外である。

 ふと気づくと窓の外が大分暗くなっていた。随分と集中していたようだ。

 その時、扉を遠慮がちにノックする音が聞こえた。

「マイ様、そろそろお食事の準備をさせていただいてもよろしいでしょうか?」

 そういえばお昼を食べた後、ほとんど何も食べてなかった事に気づく。そして気づいてしまうと途端に空腹を感じるのだから現金なものだ。

 舞は自分から扉を開けると、イリスに食事の用意をお願いする。

 やがて目の前に用意された食事は元の世界のフランス料理のように華やかなものだった。しかも文句なく美味しい。

(場所が場所なだけに、きっと最高級の食材が使われてるのかな…)

 食後に用意された紅茶を飲みながら、明日からどうしようか…と考える。

(とりあえず…帰れるならいいけど、帰れないなら必要なスキルを身に付けて…逃げよう!)

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