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聖獣と王太子

 呆然とする舞を暫く見つめていたアルフレッドだったが、もう一度舞を強く抱きしめるとそっと自分の腕から彼女の身体を解放する。

「…アルフレッド…?」

「マイに…これ以上は触れないと約束する。今回の件が終わっても、君を無理に城に連れ戻そうとはしない。だけど…君の傍にいる事だけは許して欲しい」

 真摯な声に舞の心が揺れた。でも、言葉だけで許せるほど素直にもなれなくて---。

「私はこの世界で好きなように生きていきたいの」

「うん」

 切なそうな表情ではあったものの、以前のように舞の言葉を咎める事はなくアルフレッドが頷く。

「…この国以外にも行くかもしれないわよ?」

 王太子であるあなたがついてくる事は難しいでしょう?という意図を込めて、口にしてみればアルフレッドが小さく笑った。

「俺の妃はマイ以外いない。だから君を護るためならば何でもする。もちろん舞が他国に行きたいというなら一緒に行こう」

 彼の中では舞と共に行動することが既に決定事項らしく、何の問題もないという風に言われてしまった舞の方が躊躇う。

(いや、あなた王太子ですよね!?しかもいつの間にか妃って何!?)

 予想外の展開に焦る舞の様子に自分が言った事が原因だと気づいたのか、アルフレッドの表情が僅かに曇った。

「すまない…突然言う事ではなかったな。だが俺は本気でマイと結婚したいと思ってる。もちろんすぐにとは言わない。だけど…いつか俺との将来を考えてくれたら嬉しい」

 そう言って、舞の右手を取るとそっとキスをした。


 触れた唇の熱さが移ったかのように頬が熱くなる。


 それを隠すように、取られた右手を引くと舞はアルフレッドに背を向けた。

「いつか…私がこの世界で生きる覚悟ができたら…考えてもいいわよ」

 元の世界の未練を断ち切れる日が来ることはないだろうけど、元の世界と同じくらい、この世界を大切だと思えたなら…。

 きっと前を向いて、アルフレッドとも向き合う事ができるだろう。

「…ありがとう。今はその答えで十分だよ」

 背中からそっと抱きしめられ、耳元で「待ってる」と囁かれると、その甘さに逃げ出したくなった。

(…っていうか、逃げていいよね!)

 だがアルフレッドに抱きしめられている状態では一緒に転移してしまうので無駄な抵抗だと気づく。

 それならば、と舞は話題を変えた。

「アルフレッド、前にまだあなたに隠している事があるって言ったのを覚えている?」

 突然変わった会話の内容に若干戸惑いながら、アルフレッドは「あぁ、覚えている」と答えた。

「アルフレッドが話してくれた事は、嬉しかった。だから、私が隠していたことを教えてあげる」

 それがアルフレッドにとっての安心材料になるかはわからないけど、と続いた舞の言葉にアルフレッドが嬉しそうに微笑みながら「ありがとう」と言った。

 舞は一度深呼吸をすると、左手の中指の指輪に声を掛けた。

「リン、出てきて」


『いいのか?』


「うん、アルフレッドに挨拶して?」

 そう言った舞の声に応えるように指輪が白く輝くと、舞とアルフレッドの間にリントヴルムが姿を表す。

 龍のような見た目に銀色の鱗と翼を持った生き物を見たアルフレッドがある事に気づいたようにその場に片膝をついて頭を下げた。


『そう畏まらずともよい。王太子アルフレッドよ。先代聖女の時にも会っているであろう?』


 先代の聖女と共にいた姿を見ていたはずなのに、舞の場合はイレギュラーな召喚だった事もあり、聖獣が舞と契約しているとは思わなかったのはアルフレッドの落ち度だ。

「既に聖女と契約されているとは知らず、ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」


『マイがそう望んだのだ。お主のせいではない』


 二人の会話を黙って聞いていた舞だったが、会話の内容から二人が面識があるらしいと気づく。

「そうか…リンは前の聖女様とも一緒にいたのよね?その時にアルフレッドとも会った事があるんだ?」


『あぁ、だが直接会話をした事はなかったな』


「…ちょっとまて、マイ」

「何?」

 少し震えた声で自分を呼んだアルフレッドを見れば、顔色が悪い。

「どうしたの?気分でも悪い?」

「聖獣様を愛称で呼んでいるのか…?」

「だってリントヴルムって呼びづらいじゃない。リンも良いって言ったし」

 ね?とリントヴルムに同意を求めれば、『うむ、悪くない』とちょっとご機嫌な様子で返事をする。そんな舞とリントヴルムの様子にアルフレッドは気が抜けたように息を吐くと身体から緊張が解けるのを感じる。

(本当に規格外だな…)

 聖女と聖獣の存在はこの世界にとって最も尊い存在で、誰もが傅くべき存在のはずだった。だが舞とリントヴルムの様子を見ていると、その気安い関係に畏怖よりも暖かな空気を感じてほっとする。

「そういえば私が夜、森の中で何をしているのか聞きたがってたわよね?」

「…あぁそうだな?」

「折角全属性の魔力を持ってるんだし、ってことでリンに特訓してもらってたの。おかげで城で教えてもらった魔法以外も大分使えるようになったのよ?」

 それを聞いたアルフレッドの顔色が今度こそ青褪めた。

「それは…ただでさえ規格外な魔力を持っているのに、聖獣様による特訓で更に上達したと…?」

 どの程度の実力を身に付けたのかなんて、怖くて聞きたくない。

 だが、聞かないわけにもいかなくて…。

「マイ…その、どのレベルまで使えるように…?」

 その疑問に答えたのは舞ではなくリントヴルムだった。


『魔力制御も大分できるようになったからな。お前たち金の魔力を持つ者相手でも遅れを取ることはなかろう。魔力制御が完璧になるまでは我が補助すれば問題ない』


 まだ完璧ではないにも関わらず、既に自分よりも上のレベルにいるというリントヴルムの答えにアルフレッドの表情が引き攣る。

 それでも彼女の傍を離れるという選択肢はない。

「…わかった。それでも俺はマイの傍で君を護りたい」

 真っすぐに自分の目を見て告げられた言葉に舞は「期待してる」と言って笑った。

ちょっと短めですが、キリのいいところで。

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