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告白

 あれからアルフレッドと舞は輸送と検問所の2つの制度を確立させるために、慌ただしい日々を送っていた。

 手順書については、改めてアルフレッドと一緒に検問所を視察した舞が中心になって内容を纏めていく。

「セントクライスの特産品を頭に入れておいて良かった。当面は偽物が出回るとこの国の評判を落としかねない商品を中心に取り締まるようにすれば、徐々に広まっていくだろうし」

 手元の紙の束をめくりながら舞が呟く。それを聞いていたイリスが確認するように声を掛けてきた。

「マイ様、証明書の形式はどうされますか?」

「それなのよねぇ…。文章はともかく証明書自体を偽造できないようにできれば一番いいんだけど…。前の世界でもそういったものはどんなに対策しても偽造する人は後を絶たなかったし」

 考え込む舞にイリスが何かを思いついたように、机の上にあった紙の束から1枚の紙を手に取ると、ペンで適当な文章を書く。

「マイ様、こういった方法はいかがでしょうか?」

「イリス?」

 彼女が手にした紙を見た舞が首を傾げると、イリスが「これが証明書だと思ってください」と言って、右手で持った紙に左手をかざす。

 やがて紙自体が淡い青色に光ると、10秒ほどして光が消えた。

「何をしたの?」

 光が消えた紙を渡された舞は紙を光に透かしてみたり、軽く引っ張ってみたりしたものの、特に光る前と異なる個所は見当たらない。

 そんな舞を見ていたイリスが別室に控えていたメイドを呼ぶと、「その紙に何か書いてみてください」と言った。それを聞いたメイドが言われた通りペンで文字を書こうとしたが、まるで水にペン先を入れた時のようにインクが滲んで消えてしまい、紙に書くことはできなかった。

「え、どうなってるの?これと同じ紙よね?」

 その様子を見ていた舞は先ほどイリスが紙を取ったのと同じ紙の束から1枚紙を取ると、メイドに同じように文字を書いてみるようお願いする。今度は普通に文字を書くことができた。

 舞が説明を求めるようにイリスを見る。するとイリスはメイドに「ありがとう」と言って下がらせ、先ほど文字を書くことができなかった紙を手に取って説明を始めた。

「こちらは魔法で保護した紙です。この魔法の特徴は自分より強い魔力を持つ者が保護したものに対しては、基本的に変更や破壊はできないということです」

 先ほど青色に光ったのは、イリスの魔力が青だからだという。

「完全ではありませんが、この国では青以上の魔力を持つものは限られます。そこで証明書を交付する担当官を一定レベルの魔力を持つ者に限定し、この魔法を掛けさせれば、ある程度の偽造は防げるのではないでしょうか?ちなみにマイ様は私よりも魔力がありますので、この紙に文字を書く事も紙を破る事もできますよ」

 そう言われて試してみれば、先ほどのメイドの時と違って舞は普通に文字を書いたり、端を破ってみたが問題なくできてしまった。

「なるほど…、そういう事なら場合によってはアルフレッドが保護魔法を掛ければ、これ以上ない証明書になるってわけね?」

「はい」

 現実的には王族が全ての証明書の処理を行うわけにはいかないだろうが、国として重要な輸出入契約の時などは効力を発揮するだろう。

「うん、当面はそんなに数も多くないだろうし、この方法でアルフレッドに相談してみようかな。イリス、ありがとう!」

「いいえ、お役に立てたのなら嬉しいです」


 あの後、夕食の時にアルフレッドにイリスの案を相談すると、アルフレッドも賛成してくれたので、当面はこの方法でいけそうだ。

 証明書自体の記載に問題が無い事が担当官によって確認されていれば、保護魔法自体は纏めて掛けられるので、それほど手間ではないというのも良かったのだろう。

 舞は自分の部屋のソファに座ると、頭の中を整理するように天井を眺めながら考えを巡らす。

(とりあえず私が手伝える事はそろそろ終わりかな)

 前の世界の仕事のせいか、つい気になって口を出してしまったが、それに伴う責任は果たせただろうか…?

「ねぇ、リン。あとどれくらいかかるかな?」

 あの夜から毎晩リントヴルムと一緒に魔法の訓練をしているせいか、最近では大分制御できるようになったし、苦手だった攻撃魔法もある程度使えるようになったと思う。


『そうだな…今でも一人で夜の森を難なく抜ける事ぐらいはできるが、完全に制御できるまでにはあと数週間は必要だろう』


「転移魔法は完全習得できたと思っていい?」


『あぁ、今なら地図さえあれば問題なく転移できるだろう』


 最優先で取り組んだだけあって、転移魔法はリントヴルムのお墨付きを貰えたらしい。それを聞いた舞はテーブルの上に、城を出る時に持ってきた荷物の中から地図を開いた。

「そろそろ次に行く場所を決めておかないと…」

 おそらくあと1週間もあれば、進めてきた制度の運用を開始することができるだろう。そしてアルフレッドはしばらくの間はそれにかかりきりになるはずだ。ならば、その間にできるだけ遠くに移動しておきたい。

「同じ見つかるにしても他国にいた方がアルフレッドだって動きにくいはずよね」

 それが希望的観測だとしても、逃げ切る可能性は少しでも上げておきたい。

 そう思って地図に視線を落とした時、扉を叩く音が響いた。

 時刻は寝るには早いかもしれないが、人を訪ねるには遅い時間だ。舞は一旦地図を仕舞うと、警戒しながら扉の向こうに声を掛ける。

 今夜もリントヴルムと魔法の訓練に行く予定だったため、服装も昼間のままだった。

「誰?」

「マイ、俺だ」

「アルフレッド?何の用?」

 扉は開けずに問い返せば、扉の向こうで苦笑する気配がした。

「少しの時間でいい、話せないかな?」

 ほんの少し躊躇うような小さな声。アルフレッドにしては珍しい声音に、舞を暫く躊躇ったものの、結局扉を開けた。

「…どうぞ」

「ありがとう」

 そう言ってアルフレッドは部屋に足を踏み入れると、扉を閉めた舞の右手をそっと取った。

「アルフレッド?」

 突然の事に驚いた舞が取られた手を引こうとしたが、アルフレッドが強くその手を掴むのが先だった。

 そしてその手を握ったまま、アルフレッドはどこか苦し気な表情で舞を見つめる。

「…マイ、君と、君の世界の事を教えてくれないか…?」

 躊躇いがちに問いかけられた言葉に舞の身体が小さく跳ねた。

「話したって何も変わらないわ。どうせ戻れないんでしょう?」

 酷い言い方をしてるのはわかってる。だけど言わずにはいられなかった。

「それでも…俺は君のことを知りたい、と思う」

 これまで聖女であることだけを求められる理不尽にずっと怒りを覚えていた。

 むしろそれがここで自分が動くための原動力だった。


 ―――どうせ誰も自分の事など何もわかってはくれない。


「なによ…今更遅いのよ…」

「ごめん…俺達は何よりも先にマイの話を聞くべきだった…」

 そう言いながら舞の身体をゆっくりと引き寄せると、壊れ物を扱うようにそっと抱きしめる。

「誰もが聖女としてしか私を見ていないじゃない…。私は聖女なんかじゃなくて『水沢舞』なのよ。ただの日本人で、営業の仕事が好きで…やっと大きな契約も取れて…これからって時だったのに…!」

 舞の目から涙が零れ落ちる。それが悔し涙なのか、悲しみの涙なのか舞自身にも分からなかった。

「そうか…マイは優秀だったんだな」

 聞いたことのないような優しい声でそんなことを言うから…。

「……もっ…と…やりたいことが…沢山あったのに…!」

 涙が止まらない。

「全部…できなくなっちゃった…」

「マイ…」

 アルフレッドの腕の力が強くなる。

「もう…大切な人にも二度と会えない…」

 生まれてからここに来るまでに出会った大切な友人にも…家族にも…二度と会うことは叶わないのだ。

 人が好きな舞にとって何よりも辛いことだった。

「ずっと側にいる…俺がマイの側にいるから…」

「…罪悪感ならやめて」

「違う、マイが好きなんだ」

 少しだけ腕の力を緩めると、アルフレッドは舞の瞳を覗き込むようにして視線を合わせる。

「そんなの…信じられない…」

「信じてくれるまで言い続けるよ。マイの人が好きで、困っている人がいれば助けずにいられないところも、理不尽なことに立ち向かう芯の強さも、全部が愛しいと思ってる」

「1番理不尽なことをしたのはあなたじゃない…」

 自分のことを棚に上げて、と思うと思わず笑ってしまった。

「あぁ、だから…マイは俺を許さないで」

 真摯な声に舞の目が見開かれる。

「マイを愛してるから、君から全てを奪った俺を許さなくていいんだ」

 人生を狂わせるほどの理不尽さに耐えるには、時に怒りも必要だということをアルフレッドはわかっていたのだ。そしてそれを向けられるべきは自分であることも。


「だから…許さないままでいいから…それでも俺の傍にいて欲しい」

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