表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/21

変化する気持ち

 昨日の夜、舞が宿を出た事を知ったアルフレッドは気づかれないように舞の後を追った。リントヴルムの言う通り、最初に追っていたのは使い魔だったが、こんな夜の外出とならば自分が直接向かった方がいいと思ったのだった。

 しかし結果としてアルフレッドが舞が何をしていたのかを知る事はできなかった。

 使い魔の案内で舞のいる森までは辿り着いたものの、そこには強力な結界が張られており、流石のアルフレッドでも壊す事はおろか、結界の中を伺う事すらできなかった。

 結界が聖女の魔力の色で作られている事から、結界を張ったのは間違いなく舞だとわかったが、それにしては少し違和感があった。

 あの日、舞と一緒に感じた舞とは違う魔力を感じたような気がしたのだ。だがその違和感が何かを確認することはできず、アルフレッドは結界の中を探る事は諦め、舞が結界を解いて宿に戻るまで、ただ見守ったのだった。


「…アルフレッド様」

 昨晩の事を思い出していたアルフレッドの耳にマティアスが自分を呼ぶ声が聞こえる。その声に我に返ると、アルフレッドは「すまない、少し考え事をしていた」と言って、手元の地図に視線を戻す。

「それで、輸送経路の選定はできそうか?」

 舞の提案した『物を運ぶだけの仕事』を具体化するためには、それが人々にとって使い勝手のいいものでなくてはならない。なおかつ、物を運ぶ側にとっても商売として成り立つだけの利益がでなくてはならない。

 だからこそ輸送経路の選定は重要だった。王都が中心になるのは仕方がないにしても、運ぶ先となる街の選定は慎重にする必要があった。

「そうですね。最も設定しやすいのは、やはり王都とその街の間に整備された街道があり、街道の途中に警備のための詰所が置ける立地があることでしょうか」

 言いながらマティアスの手が王都といくつかの街に印をつけていく。もちろん、このイゼルも対象になっている。それ以外にも王都から放射線状に伸びているいくつかの街道の先にある街に印がつけられいた。

 アルフレッドは最初のサービス開始の街としては妥当なところだな、と呟きながら追加でいくつかの街に異なる印をつけた。

「殿下、それは?」

 王都からはいささか行きづらい街につけられた印にマティアスとイリスが首を傾げる。

「忘れたのか?王都から運ぶよりも近隣の街から調達した方がいい商品があるだろう?」

 それを聞いて二人が納得したように頷く。

 そう、王都との商品輸送だけでなく、近隣の街との輸送も整備されれば、更に住民の利便性は上がるはずだ。

 だが一つ問題がある。

「街道の警備はどうされますか?」

 イリスの疑問にアルフレッドが少し考えたあと、対策を説明する。

「すぐに治安を改善するのは難しいだろう。だから当面は騎士団から護衛をつける。その分治安がいい街道沿いの護衛はしない。何かあれば街道沿いに設けた詰所にいる警護の者に対応してもらう」

 舞が国の事業として取り組めば、という言葉がアルフレッドの頭に残っていた。国として動ければ、騎士団を動かすことも可能だ。

 それを見越して、既に父である国王と宰相のオスカーには計画の概要をしたためた手紙を送っていた。

 今朝、国王から事業を国家事業として承認する旨の内諾も貰っている。オスカーは王都で事業の拠点となる場所を探してくれているはずだ。

「地方都市同士を結ぶ街道は今後重点的に整備していく。同時にその街道沿いに街を作れば地方の活性化にも繋がるだろう」

 それには各地の領地を治める領主である貴族たちの強力が不可欠だが、国家事業であることと、それぞれの領地が栄える事で税収が増えるといえば協力を得られるだろう。

「だが全ての輸送経路を一度に開始させるのは現実的ではないし難しい。まずはこの街と王都を繋ぐ経路を開始させよう。同時にその輸送経路を使ってディルラインの違法な商品が流入しても困る。こちらの目途がついたら検問所を視察に行こうと思う」

「かしこまりました」

 マティアスがタイミングを見て視察の手筈を整えると言うと、アルフレッドが頷いた。




 午後、宿に戻ってきた舞がアルフレッドの部屋の扉を叩く。

「アルフレッドに話があるのだけど、時間ある?」

 イリスが開いた扉から顔を出してそう言った舞にアルフレッドが「もちろん」と答える。

 部屋の主の許可を得た舞が部屋に入ると、テーブルに舞とアルフレッドの分の紅茶が用意される。

「それで、どうしたの?」

 アルフレッドが舞の話を促すと、舞が午前中に見てきた検問所の様子を伝える。

「…予想以上だな」

 後日視察に行こうなどと悠長なことを言っている場合ではなかったらしい。アルフレッドは眉を顰めると、深い溜息を吐いた。

「輸送の方の進捗はどうなの?」

「経路の選定は殆ど完了した。国家事業としての承認は今朝陛下からいただいたところだ。王都の拠点はオスカーが探している」

「流石早いわね。手始めにこの街と王都を?」

 何も言わなくても全ての経路の一斉開始は難しいと理解して、自分と同様にこの街から事業を開始するという考えに辿り着く舞にアルフレッドが笑みを見せる。

「あぁ、その通りだ。オスカーの準備と平行してこちらでの拠点となる場所を探すつもりだ」

「実際に運ぶ人手はどうするの?」

「この事業は最初が肝心だ。預けた荷物が間違いなく相手先に届くという信用が築けなければ、絶対に根付かない。だから最初は王宮に出入りしている商人を使う。それに護衛と監視を兼ねて騎士団の者をつける予定だ」

 アルフレッドが正しくこの事業の最も重要なポイントを重視して体制を整えようとしている事に、今度は舞が笑みを見せる。

「それなら安心ね」

「あぁ、だが次の問題は検問所の方だな」

 どうしたものか、と表情を曇らせたアルフレッドに舞が1つ提案をする。

「まずはマニュアルを作りましょう!」

「マ…ニュ…アル…?」

 聞いたことのない言葉にアルフレッド達が首を傾げる。

「あ、そうか。えーと、手順書って言えばいいのかしら」

「あぁ、それならわかる。だが何の手順書を?」

 要はその商品が偽物か本物か、商品が適正な価格なのか見分ける事ができる担当者がいないのが問題なのだ。だが、詳しい人物が1人だけいても意味がない。

 ならばマニュアルがあれば、誰が担当でもある程度選別できるはずだ。

「例えば、この間私が露店で進められた希少な蜘蛛の魔物の糸でできている青い布。本来の相場の半分以下の金額で売られていたわ。もちろん偽物よ。これを検問を通る時に持ち込もうとした商人にそれが本物であるという証明書をつけさせるのよ」

 保証書、という概念はこの世界にない。だが高価な品物をセントクライス内で売るにはそれが必要だと決めてしまえばいいのだ。

「だが、その証明書が本物だとは限らないだろう?」

 もっともな指摘に舞が頷く。

「えぇ、その通りよ。だからもしその証明書または商品が偽物だった場合、その商人は商品代金以上の罰金を支払うとか、この国での商売を一定期間禁止するとかの罰則が必要よ」

 他国の商人に罰則を課すというのはかなりハードルが高いだろう。だが商取引でこれがなければ、商品の品質が担保できない。どうしても必要な制度だ。

「…それは…中々ハードルが高いな」

 難しそうな顔で黙り込むアルフレッドを見ていた舞が口を開く。

「だったら、セントクライス側だけでも始めてみたらどう?」

「え?」

 驚いたアルフレッドに舞が厳しい表情で続ける。

「こんな厳しい制度、他国がすぐに受け入れるのが難しいのはわかるわ。でもそれ以前に他国にそれを求めるなら当然自国でも実施すべきでしょう?だから、セントクライスから他国に輸出する高価な品々にはそれが本物であるという証明書をつけて輸出するのよ。そうして先に証明書のついたセントクライスの商品は間違いなく本物だという信用を気づいてしまえば、他国も追随せざるを得ないわ」

 証明書の発行も当面は国がやるのが一番だと思うけど、ゆくゆくはそれぞれの専門家や専門店が発行するようにしたっていいんじゃない?と続いた舞の言葉にアルフレッドが唖然とした表情で舞を見つめる。

「…マイ、君って人は…」

 自分たちではまるで考えつかないような事を、次々と提案する彼女にアルフレッドの中に今までとは異なる思いが生まれる。


 彼女が聖女であろうとなかろうと、自分と共にいて欲しい。

 やがて自分が国王となった時に、彼女が傍にいてくれたらどれほど心強いだろうかと。

 …だが、同時に思う。これ以上彼女を縛り付ける権利は自分にはないのだと。


 だから、どこか泣きそうな気持ちになりながら、表情だけはいつもの笑みを浮かべて舞を賞賛する。

「マイの提案はどれも素晴らしい。是非、先ほどの手順書の件と合わせて具体的な話をさせてくれないか?」

「もちろん!」

 嬉しそうに了承してくれた彼女の笑顔を見つめながら、アルフレッドは彼女から見えない場所できつく手を握りしめた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ