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新事業の提案

 4人はこの街の王族用の宿を取り移動すると、早速アルフレッドの部屋に集まった。

 舞は街の中の宿でいいと言ったのだが、同じ宿の方が都合がいいと言って押し切られてしまったのだ。

 その代わり、舞が聖女である事は周囲には伏せてもらっている。

「ここに来る前の街で雇った冒険者ってことにでもしておいて」

 舞の要望にアルフレッドが何とも複雑そうな表情をしたが、特にこだわるところではなかったのか、「わかった」とだけ答える。

「じゃあ、早速始めましょう」

 そう言ってテーブルの上に地図を広げた舞の目の前にはアルフレッド、右側にはイリス、左側にはマティアスが座っている。

「アルフレッド、この宿に泊まるのは初めてじゃないわよね?」

「あぁ、何度か滞在している」

「その間に出てきた食事で気になったりしたことはなかった?」

 暫く記憶を思い出すようにしていたアルフレッドが、しばらくして「ないな」と言うと、舞が納得したように頷いた。

「つまり、この宿は王族に出せるほどの品物をきちんと調達できているってこと」

 そう、王族も泊まるような高級宿で鮮度の落ちた野菜や果物なんかでることはない。だからアルフレッドも気づかなかったのだろうが、逆に言えば王族用の食べ物を運ぶ経路は存在するはずだ。

 それを使えないか、という舞にアルフレッドが頷く。

「マティアス、この宿の主に食材の調達方法を確認してきてくれ」

「かしこまりました」

 そう言ってマティアスが席をはずすと、そのやり取りを見ていた舞がアルフレッドに尋ねる。

「そういえばこういった地方と王都との連絡ってどうやってとってるの?」

「別に特別な事はない。手紙を書いて、魔法で相手に届けるだけだ」

 それくらいの魔法なら魔力さえあれば一般市民でも普通に使える。それを聞いた舞が何かを考え込むように黙り込んだのを見て、2人が顔を見合わせる。

「マイ?」

 数分が経過したところで、アルフレッドが遠慮がちに声を掛ける。

「あ、ごめんなさい。ちょっと考え事を。そういえば王都の店はどうやって品物を仕入れているの?」

 元の世界の流通に関する事なら専門だが、この世界の流通についてはまず普通が何かわからない。

 舞の問いかけに答えたのはイリスだった。

「普通は仕入れたい商品を扱っている店に行って直接買い付けるか、この街のように売りに来た商人から買っていると思います」

「え、事前に必要な数量を相手に連絡して用意しておいてもらう、とかはしないの?」

 発注書とまではいかなくても、それに近いものくらいないのだろうか?と思った舞にイリスが苦笑しながら教えてくれた。

「王宮レベルの仕入れならば、事前に必要な品物や数量を記入したものを出入りの業者に渡し、次回持ってきてもらうということはあります。しかし一般市民はそこまで大量の品物は不要でしょうし、都度その場にある商品を仕入れていると思いますよ」

「なるほど…。それもそうね」

 元の世界ほど多種多様な品物が大量に出回っているわけではない。だからそのレベルで十分なのだろう。

「でも毎日使うものとか、常にストックしておきたいものとかは毎日お店にあった方がいいわよね?特にこういった地方都市なら品切れになったら、次に商品がくるまで大分待つんじゃない?」

 そして新しい商品が来なければ、手元にあるものを売り続けるしかない。たとえ鮮度が落ちていたとしてもだ。

「うーん、マーケティングの重要さが身に染みるわ…」

「マーケティング?」

「あ、ごめん気にしないで。元の世界ではね、色々な情報を使ってどの地域ではどういった商品が売れるのかとか、住んでいる人によって売れる商品が変わるからそれによって店頭の商品を変えるとかする方法があったの」

 それを聞いたアルフレッドが「面白いな」と呟く。だが、イリスも言った通り、この世界ではそこまでは必要ないだろう。

「殿下」

 そこに確認に言っていたマティアスが戻ってくる。

「どうだった?」

「はい、確認したところ、この宿では自分の宿専用の馬車と人を複数雇い、2日に1回程度は王都から荷馬車が到着するようにしているようです」

 ここから王都までは馬車で1週間以上かかる。普通に往復していては商品の補充は間に合わないだろう。

 だがそれは高い宿泊料を取る高級宿だからこそできることだ。舞が聞きたいのは別のことだった。

「でもそれでは鮮度を保つことはできないでしょう?」

「あぁ、それは2つの方法で解消しているそうです。1つは鮮度を保つ魔法をかけた箱を乗せた馬車で王都から運ぶ方法と、一般的な野菜や果物などは王都ではなくこの街に近い別の街から仕入れたりしているようです」

「なるほど。でもそれなら何故、この街の人は近くの街から仕入れないの?」

 当然の疑問にマティアスが言いにくそうに説明する。

「その…この街から他の街に行く街道はあまり整備されていない上に、あまり治安が良くないのです。護衛を雇えるような者ならともかく、一般市民が気軽に出かけるのは危険です」

 舞はちらり、とアルフレッドを見る。

 その視線に小さく頷くと、アルフレッドが取るべき対策を口にする。

「この街と近郊の街が安全に行き来できるような対策を講じることと、王都との間で商品を運ぶ方法についてはこの宿に頼む方法もあるが…」

 アルフレッドが言い淀むのもわかる。この宿の馬車を一般市民にも解放しろというのは簡単だが、おそらく宿側は納得しないだろう。

「それについては一つ提案があるんだけど?」

「是非聞かせて欲しい」

 全員の視線が向けられると舞が簡単な事のように言った。


「荷運びだけを請け負う店を作ればいいのよ」


 つまり元の世界でいう物流業者がいればいいのでは?ということだ。今までは自分たちで仕入れて運ぶか、運ばれてきたものを買っていたが、欲しい物を頼めば運んでくれるサービスがあれば解決する。

「殆どの人は手紙を書いて送る事はできるんでしょう?だったら、王都の店に欲しい品物を書いて魔法で送って、受け取った店側は商品を王都にいる専門の店に持っていけば、頼んだ相手に届けてくれるってわけ。これなら少なくともこちらから王都に仕入れにいく時間の半分で商品が届くわ。当然、運ぶには手数料を払う必要があるけど、当面は王家直轄の事業として初めてもいいんじゃないかな?それなら護衛も付けられそうだし」

 舞の提案を聞いた3人が驚いた表情で舞を見ている。

「場合によっては冒険者や他の商人に荷運びを依頼することはあるが、それ自体を商売にしようとしたものはいなかったな…」

 アルフレッドの言葉に他の2人も頷く。

「荷物を運ぶ、というのも立派な目に見えない商品よ。どうかな?」

 採用できそう?と問いかける舞にアルフレッドが頷く。これなら一度方法を確立してしまえば、他の地方都市でも使えるはずだ。

「もう一つの懸念事項である国境の検閲についても検討しよう。そちらは俺の方で素案を作る。できたらまた相談に乗って欲しい」

「いいわよ」

 元の世界の税関や検疫所を頭に浮かべながら舞は頷いた。

 そうして今日はここで一旦解散し、また明日アルフレッド達の方で対応策を考えたものを元に話し合うことにする。

「あ、そうだアルフレッドに聞きたい事が」

「何だ?」

 部屋を出ようとしていた舞が振り返って尋ねると、アルフレッドが手元の地図から視線を上げる。

「どうして毎回私のいる場所が正確にわかるの?」

 リンに魔力の色を見ればわかると言われたが、それにしてもピンポイントで見つかりすぎる。

「…それを教えるとでも?」

 複雑な表情でそう答えたアルフレッドに舞が「それもそうね」と言う。

「まぁ、いいわ。私もまだ隠してる事があるし、お互い様よね」

「まて、まだあるのか!?」

 頭を抱えるアルフレッドに意味深な笑みを向けながら、舞はさらっと返す。

「あるに決まってるじゃない。でも教えないけど」

 そうしてお互いの切り札を隠し持ったまま、仮初の協力関係が続くのだった。

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