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プロローグ

初めての投稿作品です。拙い作品ですがどうか読んでほしいです。感想とかもらえたら嬉しいです。

「私はノアのためならなんでもできる。たとえノアが拒んだとしても私はこうするしかなかったの。私が見たかったのはノアの笑顔なのに。どうしてこうなっちゃうんだろうね。それでも私はもう止まらない。」


「カフカちゃん、私はこんな事望んでないよ。ただ二人でまたご飯を食べられるだけでいいの。」


「そんなことも許してくれない世界だから私は、私たちは戦うの。戦うしかないの。分かってノア。」


二人の少女が向かい合う。譲れないもののために。互いのために。





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私はノアと博士と研究所で暮らしていた。研究所の外に出たことはなかった。言葉を交わすのはノアと博士と研究所の人だけ。他人から見たら不自由に感じる生活にも、私は満足していた。


ノアは私の唯一の妹。ノアさえ一緒にいれば私は生きていける。ノアは私の生きる意味にほかならない。そう言えるほど大切な存在。私に優しくしてくれる人はノア以外にもいる。だけど、心から繋がり、頼れるのは今でもノアだけ。


そしてもう一人私たちには大切な家族である博士がいる。博士は私たちを大切に育ててくれた親代わりの人。私たちは博士の人体実験、遺伝子実験により生み出された。つまり、私たちは博士の実験によって生み出された試験管ベビーに他ならない。だが、そのことを恨んでなんていないし、自分の出自を呪ってなどもいない。そう言えるほど博士は私たちを大切に育ててくれた。


そして私たちを語る上で欠かせない人たちが博士の所属する研究所の研究員。研究所の人たちは研究室に籠っていることが多く、中々会えなかった。それでも、時間が空いたら私たちの勉強を見てくれたり、おもしろい実験を一緒にしてくれたりした。みんなとは、生まれた時から一緒にいる親戚みたいな関係であり、そこには遠慮も気兼ねもない。物心ついたころから実験の手伝いを行い、みんなが学んでいることを少しでも理解するために学び続けた。研究狂いの変態たちと遊ぶための勉強は、みんなと同じ世界で繋がるための手段でしかなかった。


このように幼少のころはノアと博士とともに日夜勉強をし、時折研究所のみんなと遊ぶという充実した生活を送っていた。しかし、そんな生活も博士の失踪で変わってしまった。博士が失踪したのは何でもない日。



「博士、今日は何の授業をするのー?」


「今日は波動力学についてやっていく」


「量子力学を構成する分野の一つだったよね?シュレーディンガーが展開したって本で習ったよ」


「微分積分も使うんだよね?ノア微分積分大好き」


元気に、そして年齢以上の聡明な受け答えをする8歳の女の子がカフカ、少し舌足らずに喋るのが妹のノア7歳。


「微分積分も完璧に理解している二人なら難なく理解できると思うぞ。特にこのシュレーディンガーが作った波動方程式が魅力的でなー!これを考え出したシュレーディンガーのセンスには惚れ惚れするな。あぁ美しい式だ。これを肴に酒が飲めるな」



「ノアお酒飲めないから分かんない」


「博士がまた怖いこと言ってる」


二人を教える博士は2050年現在の学問が進んだ現代では稀有な万能型の天才であり様々な分野を高いレベルで研究している。様々な分野を学んでいる理由は美しい数式、理論を学ぶことに学問の垣根など存在しないという信条に基づくものである。実態はただの数式に興奮する変態であり、還暦を超えた渋さがかっこいい外見を残念なものにしている。


博士の授業は基本的にカフカとノア二人に同じ内容を教えていた。ノアの方が1歳年下だが、効率の観点から進度を合わせているのだ。二人とも遺伝子を調整されていることに加え、完璧な教育を施す環境が整っており、順調に知の怪物として育っていた。過去にアメリカにおいて人工の天才を造ることが実験された。結果知能は人類最高クラスに育ったが周囲の嫉妬などに心が耐え切れず精神を病んでしまい未完の大器で終わってしまった。しかし、アメリカの神童と対照的に二人は互いを理解しあう姉妹と、二人に優しい環境により、心の問題点さえも克服した真の神童となった。


「ねぇーこの式ってどうかんがえればいいかな?」


「ここはねー、こうして式を展開すると理解しやすいよ、ノアちゃん」


「うん。正解だ。やはりこの式は美しいな。似た式もあるが、この方が簡易で、理解しやすい。まさに愛すべき数式だな」


詰め込み教育は苦でしかなく、互いに教え合い理解度を高める授業は博士が推進する教育方法。ノアとカフカにとってはゲームを教えあっているようなもので、勉強に対する意欲が増す授業になっている。子供がおもちゃを遊ぶように二人は学問という領域で遊んでいた。

そうしてノアと一緒に、博士の授業を聞いている時、それは突然訪れた。


「すこーし、お時間よろしいですかね、神成博士」


入ってきたのは怪しげな帽子をかぶる胡散臭い男。どこまでも軽薄な笑いを浮かべている。無表情よりも底知れない笑みがおぞましい。研究所の全員の顔と名前から好きなものまで知っているカフカたちでも知らない人。


「おじさん、だーれ?」


ノアが聞く。だが、身に危険など迫ったことなどない二人。このときも不気味で嫌な存在ではあるものの新しい研究所の職員か、博士の友人という存在かな?くらいに考え、取り敢えず仲良く振舞おうと考えた。


「君はどこから入ってきた?そして誰だ?」


「ふふっ、もう過ぎ去ってしまったことよりも大切なのは今からどうなるかでは?少しお耳を失礼」


愉快そうに、だが不気味な笑いを浮かべながら博士に耳打ちをする。この時点で二人は侵入してきたのが悪人ではないかと仮定を立てていた。博士が知らない時点でこの研究所では異常事態である。


「なるほど、君は、あの時の。…二人ともここで待っていなさい。私は彼と話してくる」


何か行動を起こそうか悩んでいた二人を牽制する一言。言外に動くなという文脈を読み取り、二人が出ていくのを大人しく見送る。


「二人とも。ここに変な奴入ってこなかったかい?」


「博士が不気味な男の人と出て行ったよ」


「ここにいるように言われたの。笑顔がなんか変だった。」


「なるほどね。きっとそいつは嘲る者(スニーア)だろうね。」


部屋に入ってきたのはこの研究所の副所長である常念葵。博士と同じくらいの年齢であり妙齢の貴婦人といった風貌をしている。この研究所の中なら博士の次に二人を気にかけている人物であり、二人からの信

頼も篤い。


「結論から言うと、もう博士は帰ってこないだろうね。」


「えー、なんで?そんなに大変な事態なの?」


「ノアまだ博士に教えてほしいことたくさんあるよ!」


「スニーアはシンセリティのメッセンジャー。どこからともなく現れシンセリティの思想を伝え歩くと言

われる都市伝説的存在のことだよ。私も神成から存在は聞かされていたけど、まさか実在するとはね。」


いつもは冷静沈着な葵の焦りを隠しきれない様子から事態の重さを察する二人。


シンセリティとは今から20年ほど前の2030年ごろにできた新興思想団体である。指数関数的に発達するAIの能力。度重なる政治家の失策や世界経済の衰退。この3つの要素が重なり、政治財政を含む全人類の運営をAIなどの人工知能に任せるべきという思想が唱えられた。シンセリティとはAIの管理により共産主義の抱える独裁気質な政治を打破し、資本主義のように格差を生まない、平等な利益を人類に与ようという思想である。


20年前に唱えられたこの思想は、今では世界中を巻き込む大きな流れとなっている。20世紀の共産主義、21世紀のシンセリティと呼ばれるほど急速に思想が拡大しており、革命が起こった国もある。名前の由来はSincerelity(誠実さ)ではなく、"Synthesis"(融合)と "Purity"(純粋さ)を組み合わせた"Synthurityという造語であり、AIと人間の協力による調和を強調する名前となっている。


「でもここはシンセリティのひとたちとなんて関係ないよね?」


「日本もシンセリティは民主主義に反する有害思想として統制されてるはずだし」


本から学び大人以上の知識をもつノアとカフカは即座に疑問を口に出す。


「博士はね、ここに来る前はシンセリティの一員だったのさ。博士のもつ優れた知能をAI発達のために使いたいシンセリティと、自分の研究ができるならどこでもいい博士の利益が合致したのさ。でも急進的なシンセリティ主義についていけず、現在のシンセリティ最高責任者との政争の末にここにたどり着いたのじゃ」


「AIを利用するのに人間同士の争いが起きたって皮肉だね。話を聞いた限りじゃ、博士をもう一度利用するために攫ったのかな?」


「状況から考えるとそうだろうね。」


カフカたちは状況が思ったよりも悪いことを理解する。博士を取り戻そうにもシンセリティの本部はアメリカも中国もわかっていない状態。どこからともなく指令が回り実行される。おそらく博士はシンセリティの本部あたりに連れて行かれるのだろうが大国でも分からない場所ではどうすることもできない。


「でも、ここのセキュリティーも低くはないよね。」


「ここが破られたら政府の主要な施設でもない限り簡単に侵入できるちゃうよ?これから大丈夫かな、、、それに博士はひどいことされないよね」


「そうだね。連中のAIの力なのか凄腕の泥棒でもいるのか。でも、神成は大丈夫だろうね。研究のために命を懸けている奴だからね。何だかんだ研究を手伝いながらしぶとくやると思うよ。」


シンセリティは人類を管理するためのAIを独自に開発している。AIを使いながらならば電子セキュリティーなどは難なく突破できるだろう。物理的な警備も都市伝説で謳われているスニーアならば問題はないだろう。


葵が博士から聞いた話ではスニーアは相当な実力者であるらしいが、それがシンセリティの平均ではないらしい。博士さえも情報流出の観点から伝え聞くだけの存在スニーア。研究所に配置されていた警備員を倒したのも彼だろう、と葵は考える。


「じゃあここが破られたらもうこの施設に安全な場所はないんじゃないの?かなり大変なことだよね?」

カフカはシンセリティがこの施設ごと支配するか、壊すのではないかと危惧する。


「それはまだ大丈夫だろうね。スニーアみたいなのがうじゃうじゃいるわけでもないし。そもそも日本にそんなに人員を送れないだろうしね。日本は歴史柄、思想自体を信奉する人が少ないから現地で良質な人員も確保できないし、島国ゆえに入国させるのだけでも一苦労。もし日本の施設に対してシンセリティが攻撃したとバレた時には日本だけじゃなくアメリカにも武力を使う口実を与えるからね。世界を相手にすることができないうちは隠密行動くらいしかできないよ。」


「そうだね。できていたらもう戦争が始まっているもんね。でも博士を奪われちゃったら少し危ないんじゃないかな。博士世界でもトップクラスの天才だからAIを一気に深化させちゃいそう」


「そうだね。時間はないね。」


「対抗策はあるのー?」


「対抗できるAIを作るしかないだろうね。日本政府とかとも協力しないといけないかもね。原型となるAIは神成が作ってあるから機能を足して完成させるイメージだね。」


「なら私も手伝うよ!博士助けたいし、なによりノアに危害が及んだりしたら許せないからね」


「えーわたしも手伝うよ!」


「ううん、私だけでいいよ。元々AIとか興味あったし、ノアは自分の好きなことをするといいよ」

カフカは1歳差とはいえノアのために常にお姉ちゃんぶる。ノアを不安にさせないために一途に努力をし続ける。甘えたい年齢ながらもノアのために我慢する。


「私がノアを守るよ。これからもずっとね。」


「カフカちゃん大好きー。じゃあノアはカフカちゃんを支えるために勉強頑張るね」


「うん。ありがとう。でもノアは私のためじゃなくて自分のために頑張るといいよ。」


ノアがカフカに抱き着く。いつか世界さえ変える可能性をもつカフカの人生は、ノアに捧げるとこのときから、いやもしかしたら生まれた時から決まっていたのかもしれない。一人じゃないと気付かせてくれたノアを守ることはあらゆることに勝る。刷り込みにも似た純粋な思い。何も見返りを求めず、捧げるだけならばなにも問題などなかった。見返りを求めた時その感情は何という名前が付くのだろう。


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