罪人として捕まった
羊羹をきれいにたいらげ、皿をぼっちゃまに返すと、あたらしくお茶をいれてくれた男がすこし声をおとし、「じつはぼくは、あのお屋敷に、あやうく犯罪人をあげるところだったんですよ」と顔をくもらせながらお茶をわたしてきた。
こちらが不意を突かれたように口をあけてしまったのを、ただの間抜け面と解釈したぼっちゃまが、すこし笑うようにつづける。
「 ほら、最後一人だけ、ダイキチさんの百物語会に行けそうだった人がいたのですがね。 それが、知り合いの知り合いっていうか、どうしてあの人を誘うことになったのか、ぼくはよくわからないんだけど・・・、―― ともかくその人が、捕まったみたいで」
「『捕まった』ってのは・・・」
もう、カエには《捕まった》ではないか。
「なんでも、ほかの作家先生のなまえをかたって新聞社に作品を売り込んで、前金をせしめようとしたらしいですよ。 でも、その作品の内容が、自分を追って田舎から出てきた女の人を殺すっていう、あまりにひどいすじがきで、社も断ったみたいなんですけど・・・、記者の一人が、そういう女のひとをつれていた、いつも酔って口論をふっかけてくる《作家くずれ》がいた、って思いだして、―― 」
自分を追って田舎から出てきたのだと、いっとき自慢するように連れまわしていた女は、だれも気付かないうちに、いなくなっていた。




