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入れない方
ヒコイチのお友達だと言い張る『お坊ちゃま』こと一条ノブタカは、『文士』という仲間をあつめ、その仲間たちでつくる本に金をだしてやり、そのうえヒコイチが見聞きしたおもしろい話を、金をだして買ってもくれる。
いままで知らなかったのだが、その『仲間』になれるのは、どうやらおぼっちゃまの眼鏡にかなう者だけのようで、仲間になりたいというものは多いが、どうぞ、といわれるのは稀らしい。
そういう『はいれなかった文士』が、ときおり洋館をたずねてきたり、先に入っている『同志』にしつこく口利きをたのんでくるという。
あの酔った男も、『はいれなかった』ほうかもしれない。
「・・ま、あの酒の飲み方じゃしかたねえな」
寒気がひいてきたとたん、蒸し暑さがもどり、腰にさげた手ぬぐいをひきぬく。
雲もないかわりに風でもふけばいいようなもんを。
気をとりなおすように、襟をひき、年寄にゆけといわれたところをめざした。