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並んで見送る
「『先生』も、これですこしは気が晴れた、とおっしゃっておりましたが、わたくしはもっと懲らしめてやってもよいと思ったほどです。 ―― ヒコイチさん、やはり『人』のほうが、憎しみやら、恨みやら、重いものでございますなあ・・・」
もう陽のほとんどは山のむこうに沈み、まぶしい光の終わりかけが、庭にさしこんでいた。
池の枯れた蓮にも、うすい黄金色の光があたり、まぶしげに年寄は目をほそめた。
「 ―― 夏の夕暮れは陽がないがいですなあ。 いやいや、ヒコイチさん、ながい茶飲み話につきあわせてしまいまして、もうしわけございませんなあ・・・。 よろしければ泊まってゆかれますかな?」
この、部屋に?
「いや、おれはこれで・・・。『先生』に、よろしくお伝えください」
『ヤオビクニ』は、カエの仇をとったあとも、まだ近くにいるのだろうか?
そもそも、いまみたことは、ほんとうに今日、《この場で》おこったことだったのか?
ヒコイチはダイキチに見送られ、屋敷をあとにした。
数歩いってふりかえると、ダイキチの横には『先生』がならび、微笑んでこちらに頭をさげた。
頭をさげかえしたヒコイチは、それからもう、振り返らなかった。




