どこの寺の坊主か
『白い蝶 』の坊主が、すこしからんできています
「おれですかい?」
はい、とうなずき、「『先生』がお世話になったお寺に、ヒコイチさんを存じ上げるという《旅のお坊様》がよられたそうで、 ―― そのお坊様が、その『ひきよせ』の力をかりたほうがいいとおっしゃいまして」
「おれのことを?いってエ、どこの寺の、・・・」
いいかけて、年寄の顔をみて、口をとじる。
どうやらおかしなところで、おのれの名がでまわっているようだ。
「 ・・・もしかして、そりゃ、どこかの黒い猫のしわざですかね?」
年寄にいれてもらったお茶をいっきにのみほした。
ダイキチが楽し気に笑い声をあげ、そうかもしれませぬな、とお茶をつぎたす。
「―― その、お坊様が、『二人が会える場所をつくってやろう』とおっしゃいまして、特別な《ろうそく》をあつらえてくださいました」
あの経のような文字のはいったろうそくのことだろう。
ちょっと待てよ?
そうするとこれには、《元締め》もからんでいるということか。
「お寺にいる間に文字をかいてくださったそうで。・・・あのろうそくを囲うように置けばカエさんが気のすむまで男は《外》にでることもなく、『先生』が《おはなし》しやすい場所になる、と」
その通りになった座敷の中での出来事を《みて》いたのは、ヒコイチだけか。
聞こうとすると、いやはや《こわいおはなし》でしたな、と、どこかで芝居をみてきたような声をだした。
そうか。ダイキチもどこかで《みて》いたか。




