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蛇がでたか
「まあ、ヒコイチさま、どこにいたんですか?履物はあるのにいなくて」
あちこちさがしたんですよ、とすこし怒ったような顔の娘が、ようやく旦那様がおつきになられましたから、と部屋に座布団をならべる。
「 あの、―― ・・・さっきの、男のお客は?」
おそるおそるきいてみる。
「ああ、それが、もうなんだかわからなくて。 『お客様』がいらしたらこのお座敷に通すようにいわれてたので、ここで待っていてくださいって言ったのに、あたしが外で旦那様をお待ちしようと出たとたんに、すごい叫び声がお屋敷の中からして、そのお客様が飛び出していきました」
娘が両手をあわせるようにして、それでも男はしっかり履物をつかんでいったのだ、とおかしそうに伝える。
「お座敷に、へびでも出たのかしら?」
「・・・きっと、そうかもしれねえなあ」
娘のかわいらしいのんきさが、なんだかおかしくなってわらってしまう。




