湧き水は山から
悲鳴のような叫びをあげる男は両手で口をふさぐ。
「あら、『先生』、口をおさえつけてもむだでございましょう? ―― もう、頭の中にカエさんの《かわいらしい声》が、きこえはじめておりませぬか?」
「なにをした?―― そうか、・・・まえにカエの夢ばかりみるようになったときがあって、気がくるいそうになって酒でごまかしたが、・・・あれも、おまえが何かしたのか?どうなってる?たすけてくれ!」
男の叫び声に、「 せんせい 」と、カエのようにやさしく女がよびかけた。
「 ―― カエさんがすてられたあのお山、・・・じつはこちらのお山とつながってましてね、この裏手のお山のむこうになるんですよ。 ずいぶんと水が豊かでございましてねぇ。ほら、ここのお庭の池の水も、―― あの山からの水が湧いてるのだともうします。 ええ、うちの《湧き水》もそうですが、このあたりは《同じ湧き水》があるので、それで酒や菓子をこしらえる商家もございます」
「・・・そ、れは・・・」
「 せんせい、その『夢』をごらんになっていたころ、 ―― このあたりのご酒をお飲みになられたか、どなたかに、このあたりのお土産でもいただきませんでしたか?」
「あ、・・酒を・・・」
「まあ、それで、・・・」
ここで女のおさえた笑い声がひびいた。
「 ―― さきほどお出ししたお茶は、申し上げた通り、うちの《湧き水》でございます」
「・・・・っが、っが、」
男の顔が真っ白になり、かきだすように指を口につっこんだ。




