みていたような
格子越しに部屋をのぞくヒコイチにその女の姿はみえない。
座敷で両手をつき、一人で二人分はなしていた男も、顔をあげてあたりをみまわしている。
「ど、どこにいる!おまえが何かカエにしたのか!これはなんだ?どういうことだ」
「 それは、さきほどわたくしが『おはなし』で語った通りでございます。 ―― 先生とカエさんのおはなしでございましたでしょう?」
「っば、ばかな!おれは、」
「 死人にくちなしとお思いなのはまちがいでございます。 ―― 刃をうけたようなふりでカエさんをだまし、うしろから首を絞めて殺したのは、あなたでございます。 ・・・殺してしまったとおもった先生に首をしめられ、安堵するのと同時にカエさんはどうして先生がそんなことをするのかと・・・自分が殺められているのもわからぬうちに、亡くなってしまったのでございましょう・・・」
「なにを、みていたようなことを」
「 そのときのカエさんの着物は、黒地に赤い梅の花を大きく描いたものでございましょう? 大雨の夜、盗んだ荷車にのせ、一番近い山までゆき、あの、―― 沢をとめた堰へ放り投げるときカエさんの顔を石でつぶしたのは、 顔をみるのがこわかったからでございますか? それとも、獣に早く喰われるように、とお思いになられましたか?」
「・・・そ、ん、 『 ああ・・・出会ったときはたしかにつぼみのような美しさだったが、おまえはもうとっくに枯れていて、見る値もないような姿になってるのに気づかないのか。そういうところが、うっとうしいのだ、とせんせいは言いました 』 」
男の口からまた、かぼそい女の声がうったえた。




