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蓮池の白い煙のはなし  作者: ぽすしち


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52/73

『はなし』は ここまで


「 ―― それでは、・・・その娘は、く、るった、という話なのですか?」


 ひとつ息をのみ、言葉をつまらせききかえす男に、女はゆっくりとうつむいた。



「 あれは、・・・ええ、そういうことなのでございましょう・・・。 かなしく、くやしいことでございますが、もう、ヤエちゃんは、・・・自分の名も思い出せず、いまどこにいるのかもわからずに、 ―― ただ、『先生』だけを、さがしているのでございましょう・・・・」


 さらにうつむく女のむかいにすわる『先生』の顔が、とたんに力のぬけたものへ変わるのを、ヒコイチはみとどけた。




「 そうですか。 それは・・・、―― たしかにおそろしいはなしだ」


 うなずくようすは何かに安堵したように、くちもとがゆるんでいる。


 自分でもそれに気づいたのか、口もとをかたてでおおう。




 すると、うつむいていた女が首をあげ、音もたてずにすっと立ちあがると壁際へとむかい、「わたくしの《おはなし》はここまででございます」と、ともっていたろうそくの火をひとつ、ふっ、と吹き消した。



  ぼっ ぼっ 



  勝手に火が付いたのと同じ音をたて、部屋をかこむよう置かれたろうそくの灯がつぎつぎ消えてゆく。



 庭を背に座った男の背後、あけはなたれた障子の両側にあるろうそくのあかりだけが残る。




 部屋の中が急に薄暗くなっているのにヒコイチは気づく。


 外の陽が、いつのまにかかげっている。



 燭台の火が勝手に消えたことに、なにかをいいかけた男の口があいたままで、そこから、

 『 ・・ ああ ・ ・』 と、重い息のような、《女》の声がもれた。

     


         「 っひ!? 」


 男が、おのれの口がなにか、《しくじった》かのようにたたいて、あわててふさぐ。




 いつのまにか、壁際にいたはずの女の姿が消えているのに、ヒコイチは気づいた。

 それとともに、どういうわけか、自分が男と同じ《座敷》にいることにも。





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