のぞきみれば
―― おかしいじゃねえか
どうして、またこの部屋に戻ったのか、どうして、四方をみても戸がないのか。
などということよりも、ここには窓も明かりもみあたらないのに、あたりがしっかりみえることのほうが気に入らない。
ふいにみあげた壁の上に、いつのまにか、欄間のような格子つきの、横に長いあかりとりがあらわれた。
のびあがってのぞきみた格子のむこうに、細長い座敷が横にひろがり、むこうに廊下、そのむこうには、あの池がみえた。
「旦那様はもういらっしゃるはずですンで」
あの手伝いの娘が、細く背の高い男を座敷にとおす。
ずぞぞぞぞぞ と、首から後ろを、痛さに似た寒気がはしる。
「きょうの《百物語会》は、わたしだけですか?」
部屋をでようとした娘に男が声をかけた。
その声にも、また、背筋がさむくなる。
この、声は・・・
娘が自分にはわからない、とこたえるのにかすかにうなずいた男は、囲うようにおかれたろうそくをみまわしてから、庭へと目をうつした。
そこにもう、あの『先生』の姿はない。




