ろうそくを立てる
『先生』のことは、お店のあとを継いだ番頭にも内緒ってことか?
それとも、年若い娘には、正式な妻ではない女だから黙っておこうと考えたのか。
どちらにしても、この娘は、あの元気な年寄りが自分でお茶をいれ、客をもてなしていると信じているのだろう。
掃除で集まるという者たちは、さしずめ、『百物語会』の物好きたちか?
娘に案内されたのは、このまえの庭が見える座敷を過ぎたあとにある『納戸』のような小さな部屋で、ここにろうそくを置いてくださいとその板敷の間をしめされた。
背負っていた商売用の大きな木箱をおろし、中につめてきた桐箱を出そうとして、部屋の壁際にかたまって立たされた、皿のついた鉄の棒の群れに気づく。
「 ―― これに、ろうそくをたてるってことですかい?」
黒くほそい鉄の棒の、上と下に、飾りがほどこされた、重そうな皿がそれぞれついている。
上の皿には釘のようなものがついており、そこにろうそくを立てるようだ。
「ええ。なんだか、旦那様が遠くから集められたショクダイっていうものだそうです」
『遠く』がどのくらいなのかは知らないが、ヒコイチがいままでみたことがないような代物だ。
桐箱からろうそくをとりだす娘が、その鉄棒の、上の皿へとろうそくを立ててゆく。
もう用意するのかとたずねると、『ろうそくが届いたらそれをたて、あの部屋にうつして火をともすまでやっておいてくれるかい』と言われたという。
「そりゃ、手伝いましょう」
いくら細いとはいえ、鉄の燭台はなかなかの重さがある。




