表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
蓮池の白い煙のはなし  作者: ぽすしち


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/73

『ほんとうの家』だから





 ろうそくを担いだヒコイチを待っていたのは、初めて訪れたときに手紙を託した若い下女で、旦那様はまだなので、奥でおまちください、と通された。




 まだ、十五、六だろうと思われる娘には、どこか遠くの方の訛りがききとれた。

 このお屋敷はあまりお客様もこないので、と固いようすで先をゆく娘の気をほぐそうと声をかける。



「こんな立派なお屋敷じゃあ、掃除もさぞ、手間だろう?」


「いいえ、ここのお掃除は、決まった日にみんなでやるんで、楽しいンです」


 振り返ってこたえた娘は思った通り、遠くのほうから《下駄屋の番頭さんだったおじさんによんでもらって》来たのだと話した。

 ふだんは《下駄屋》のほうと、《おじさん》の家で《見習い》をしているという娘は、ダイキチのあとを継いだ番頭の親戚であるらしい。



「 このお屋敷は、旦那様には《ほんとうの家》だから、商売でつながってる人はいれたくねえってことで、おじさんによばれたあたしがきてるんです。 おじさんの娘のミヤちゃんがもっと大きくなったら、ミヤちゃんがきます」

 ミヤちゃんはまだ三つで、すごくかわいいんです、と口元に両手をあててわらう娘もかわいらしい。



 どうやらダイキチは、この屋敷に《いれる》ものを選んでいるらしい。



 娘がおもいついたようにふりかえる。

「 ―― でも、その掃除の日だけ、いろんなところから人が集まって、おもしろいお話がきけるから、楽しいンです」


「おや?《下駄屋》の人たちじゃあねえのかい?」


「はい。旦那様のお知り合いの方たちで」


「それじゃあ、あれか。『先生』みたいな人たちか」


「『せんせい』? いいえ、お医者様はいないとおもいます」


「お医者じゃなくて、ほら、 ―― ここにこないだもいた、『奥様』みたいな女のひとが、旦那さんに、『先生』ってよばれてるって聞いたんだけどよ」


「『こないだ』?それって、このまえヒコイチさまがきたときですか? やだあ、わたしと旦那様しかいませんでしたよ」



 困ったようにわらう娘が自分を『さま』よばわりしているのも気にならなかった。



「・・・いや、だって、お茶とかを、」


「ここでは旦那様がご自分でなさるんですよ。 だからあのときも、わたしはすぐに帰されて、あとは旦那様がお茶をいれたりなさるんです」


 めずらしいでしょう?と首をかしげるようにきかれ、ただ、ひとつうなずいた。






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ