よほど楽しみ
こんど一条のぼっちゃまの『百物語会』をここでやるらしいが、それを離れて見物したいのですが、どこか、いい場所にひそませてもらえませんかねえ、
―― と、でも?
だいいち、この『百物語会』のことをきいたときも、見物したいとぼっちゃまに正直にはなしていたら、どうぞ、と招かれたはずなのに、言い出せなかったのは、どういうわけだ?
首のうずきをかきながら、どうにも妙なこころもちになった理由をかんがえているときに、あのろうそくを運んでほしい、ということづてが届いたのだ。
「 ―― なんでも、お屋敷のご当主がこの会をえらく待ってらしたようでな、 そんで、集まれる人がすこしであろうが、『百物語』をしたい、っておっしゃったそうだ」
大福を皿にのせたばあさんが、テーブルに音をたててそれを置く。
「へえ。ダイキチさんよほど楽しみだったんだなあ」
「ぼっちゃまもえらい楽しみにされてたが、お熱がさがらんで」
「・・そんな、悪いのかい?」
かぶりつこうとした大福を口からはなす。
「いいや。食欲もあって粥じゃたりん、おっしゃるが、・・・立ち上がると目がまわってようあるけん。 ほかのお仲間もおなじようだわ。 お医者さまは、熱がさがればすぐ元気になられるじゃろうと」
「なんでい、ならよかった」
安心してやわらかいそれにかじりつく。




