気になる
ダイキチの屋敷に行ったときの仔細を、西堀の隠居のところで話したら、「やっぱりおまえも、なんだかかわいそうに思ったかい」ときかれ、あらためてそれに気づいた。
そうだ、ありゃあ・・・
『かわいそう』だとまで思ったわけじゃねえけどよ、と口にしたヒコイチを疑うようにみた年寄は、まあいいさ、と膝の上の子猫をなでた。
「 ・・・あれはきっと、ダイキチさんに声をかけられて、うれしかっただろうねえ」
「はあ?うれしいって?」
「そりゃあ、 ―― 《気づいて》声をかけてもらえるってのは、だれだってうれしいものさ」
「まあ、なあ・・・」
「そこが、なんだか気になるのさ」
黒猫が年寄にこたえるようによわよわしい鳴き声をあげた。
「『気になる』って、なにが?」
「『なに』かってのが、・・・おまえが行けばなんだかわかるような気がしたんだが・・・」
どうにもはっきりしないままだねえ、と首をかしげるようにうつむいた。
またしてもこたえるように、にゃあ、と鳴いた猫と眼があい、なにかを見透かされたようで、ヒコイチは首をかいた。
そこから、その首がなんだか、うずうずとして、ダイキチのお屋敷での『百物語会』を、どこかから『のぞいて』いたい、と考えるようになった。
そうだ。
《話す方》に加わりたいのではなく、話しているのを、離れたところから《見て》いたい気持ちが強い。
じつは、あの煙を見てからあと、ダイキチのあのお屋敷のほうへ足をむけかけたことが何度もある。
そのたびに、思いなおしてひきかえした。
いったいなんて言うつもりだ?




