どちらが 見染める
「・・こりゃ、お経か?」
「元締めに注文しておいたんですよ。ダイキチさんのところの『先生』からのお願いですから」
「『先生』?」
「いらっしゃいませんでした?あのお屋に、―― 四十路ぐらいの女のかたが」
「あ、ありゃ、奥方さまじゃねえのかい?」
たしか『家人』といわなかったか?
それに、奥方よばわりしたはずだが、二人はなにもいわなかった。
「ちがうようです」とわらい、ぼくもそうかとおもったんですけど、とぼっちゃまは、ろうそくをしまう。
「ぼくもあのお屋敷で一度だけお会いしたことがあるんですが、ダイキチさんに古今東西の《こわい》はなしを教えてくれる『先生』なんだそうです。たしかに、すこし独特の雰囲気をおもちの方ですよね。あのかたの話し声がまた耳にしみるようで・・・、先生というより、お坊さんに近いかなと思ったら、むかしはどこかのお寺で尼のまねごとをしてた、っておっしゃってましたよ。そのせいかな、―― こわいはなしばかりでなく、すごくものしりで、感心しますよ」
「まてよ?ってことは、あの奥方、じゃなかった、その、『先生』にそそのかされて、・・・あのお屋敷を買ったってことかい?」
「いえ、そうではなくて、お屋敷は買ったあとって言ってましたよ。 街中でみかけた先生に、ダイキチさんから声をかけたそうです」
それはつまり、
「 ―― 《みそめた》、ってことで?」
「さあ、そこまで無粋なことはきけませんでしたが、そうなのかもしれませんね」




