百物語に ろうそく
どうにも気がおちつかないまま、ときがすぎた。
ダイキチのところからもどって五日後、いっしょに旅をした一条のおぼっちゃまのところへ顔をだした。
べつに遊びにいったわけではなく、仕事で《ろうそく》を納めに行ったのだ。
「 ―― こんなに買い込んで、どうしようってんだか」
商売用の背負箱をおろし、中から、どこだかのありがたい寺にもおさめているという、値の張るろうそく三本ずつがおさめられた桐箱をとりだし、つみあげてゆく。
ここのお屋敷は洋式のつくりであるから、座敷はない。
いつも『応接間』とよばれるテーブルと布張りの椅子のおかれた部屋に通され、そこへ頼まれた品を置くのだが、今日おさめたろうそくが入った箱はひどくかさばり、テーブルの上いっぱい、山となってしまった。
満足そうにそれをながめていた男は、こちがぼそりと口にしたのを耳ざとくひろったのか、眉をしかめるようなわらいをみせた。
「あれ?ヒコさんはまだきいていないですか?」
「なにを?」
「ダイキチさんのところで、『百物語会』をやることになったんです」
「ひゃ、・・・ってえと、このろうそくは・・・」
「いやいや、ただの飾りですよ。ダイキチさんが、ヒコイチさんのところに頼みたいっていうんで、ぼくが元締めのところへお願いにいきました」
「あんた、・・・あの、元締めに会ったのか?」
「ええ、お会いして、これを頼みましたから」




