大雨にもただよう
――― 《みる》ってのは、どういう意味だ?
自分はべつに、《そういうもの》を見る占い屋ではないし、祓うことのできる坊主でもない。
だが、とりあえず年寄のところへは、顔をだした。
なにしろ、お坊ちゃまにおしつけられた土産物を持っていかねばならなかった。
――――
そして年寄りが、どこをみるともなく語り続ける。
「―― 雨が降ると、その蓮の上を、ずうっと・・・うん、漂ってるんだよ」
土産の桐箱をわきに置いたまま、年寄はもうひとつのみやげである松庵堂の羊羹の皿を持ち上げた。
うん、ありゃ漂ってるんだな、と一人うなずき、羊羹にくろもじを差し入れる。
「しろくって、きれいなもんなんだが、どうみても、おかしいもんだからねえ」
雨の日にずっと漂っている煙なんぞ、ときれいに断った羊羹を口にはこぶ。
「雨の日だって、煙はのぼるだろよ」
ヒコイチも皿にのせられた羊羹を手でつかみ、口にいれた。
渋めにいれられたお茶に手をのばした年寄は、お前はほんとに人の話をきかないね、とそれをすすった。
「―― この前の大雨の日もでてきたっていうんだよ。 あのときは、ここの堀もすごいことになって、あとすこしであふれるんじゃないかって、うちは大騒ぎだったがね。あ、ヒコはまだ、こっちに帰ってなかったか」
羊羹をあっというまに飲み込み、お茶で完全に流し込んでから、ヒコイチは手を振った。
「 ―― いや。もう近くにいたが、その雨のせいで、しばらく足どめだ」
ヒコイチたちがもどりかけたとき、その雨雲とちょうどかちあい、越えようと思っていた川が見る間に橋をのみこみ、けっきょく三日も足止めをくったのだ。