池の底には欠けた皿
だが、なにかがそこにいるわけではない。
枯れたハスの穴もおもいきってのぞいたが、こんどはなにもいなかった。
「それでは気のせいかと問われれば、・・・つぎのときにはその穴から、黒く長い髪がのびてまいりました・・・」
そこでダイキチは、『みえた』もののことはふせ、使用人たちと池の底をさらうことにした。
「池の水は、裏手のむこうの山あいからの湧き水をひいております。・・・池にはハスのためかどうか、やわらかい泥がたまっておりまして」
ダイキチが買いとるまでの間、かなりながい時間ほうっておかれたときいている。
「いぜん住まわれたお武家様は、お子ができずに、おいえがおとりつぶし、とききましたが・・・」
それともなにかよくないことがおこったのか、とあやしみながら泥をさらったが、出てきたのは欠けた小さな皿ぐらいだった。
「おそれていたような、人の骨などはまったくみあたりませんで」
ハスをみるのがこわくなった主人は、まだ枯れていないものもすべて刈り取るようにいいつけ、池はきれいになった。
「終えてから、もしかして、切ってしまったのは逆によくなかったかとも思ったのですが、―― それからはなにごともなく 」
また、季節がめぐった。
秋、冬、と池にはなにもおこらなかった。
春になり、庭のそこかしこで草が生え花がさきだし、池の中にも、ハスがどこからか戻ってきたかのように、水面に葉をだしはじめた。




