くらい穴
「あのウ、西堀のいん・・大旦那さんにきいたところじゃ、・・・煙が」
「三年前、買い取ったはじめの年の夏場のおわりに、ハスの実が、ならぬことに気づきました」
わざと、こちらの言葉をさえぎるように年寄のはなしが、また、はじまる。
目は、池のほうをむいたままだ。
「 ―― 実をつけなくとも、あの蜂の巣のような重いかたまりはできますし、そのまま池に落ちるのです。 あの大きな枯れた葉や茎もほうっておくと池が早くにごるので、家のものと掃除をすることにいたしました。 そのときはまだ、ここに使用人も連れてまいっておりましたので、おおぜいで。 ―― 熊手で枯れた草をかいだし、買い取るときにもっとたしかめればよかったなぞと、文句をならびたてて、・・・なにもはいっておらぬ、枯れはじめたハスの、くろい穴をのぞきましたらな、―― 」
そのくらい穴、すべてにおさまっていた目玉が、ぎょろり、と。
「こちらを見つめ返してきました」
「っひい!」
うしろ首をおさえてヒコイチはのけぞった。
それをみて、としよりは声をだしてわらう。
「わたくしもそのとき、いまのヒコイチさんのような声をあげて、池の中に尻をつきました」
助け起こされ、もう一度気をとりなおして池をみた。




