『おひきあわせ』
ダイキチのいう『みえる』というのは、―― どこまで『みえる』のか
ヒコイチの考えをよみとったように、奥方に新しいお茶をたのんだ主人は目をあわせて、うなずいた。
「 法力があるわけでもなく、ただときたま、『みえる』だけですので・・・、カンンジュウロウさんもたまたまでございますよ。 ―― ですが、・・・生きているカンジュウロウさんと集まりで会うたびに『みえる』ものが気になってしまい、いちど、・・・カンジュウロウさんは、兄さんと姉さんがありましたか?ときいてしまったことがございます・・・」
乾物屋の兄弟?セイベイのことではなく?
ヒコイチのとまどった顔をみて、歳よりは《しくじった》というように口をあける。
「あ ―― 。いまのはなしは、なかったことにしてくださいませ。 ―― まいったな。ヒコイチさまによけいなはなしをしてしまった・・・」
困ったように奥方のほうをみる。
おんなは、それでよいのだとでもいうように、笑んでうなずいた。
ダイキチはまた、たたんだ手ぬぐいをだして額の汗をたたくと、気をとりなおすようにまたはなしだす。
「・・・ですので、―― 《ひきよせ》のできるヒコイチさまのつくった《縁》にたよれば、どうにかなるのではないかと思い、どうしても、紹介していただきたいと、セイベイさんにお願いしたのでございます。 すると思ってもみないことに、一条のノブタカさまも、そのヒコイチさまをぞんじてらっしゃるときき、これはもう、なにかの《おひきあわせ》だろう、と」
ぽん、と膝をうち、嬉しそうな顔をむけられる。
「 ・・いや、だからおれは・・・まあ、とにかく、おれはただ、一条のぼっちゃまと顔みしりってだけなんで、さっきからの『さま』呼びは、やめてもらえませんかい」
うなずいた年寄が、「では、ヒコイチさん」と声をあらためた。
「どうか、ごらんになっていただきたい」
セイベイより年上だというが、しっかりとしたようすで、すっと立ち上がる。
先に立っていた奥方が隣の部屋に続くふすまをひらく。




