みえるだけでも
ダイキチは、いま目にした男の姿を、そのまま女に伝えた。
横できいていた祖父が、さすがに驚いたように孫と女をみくらべ、すこし慌てた気配をみせたが、女は素直にダイキチの言葉を信じ、座した『男』がいるほうをむくと、「 さま、・・・もう、この世にはいらっしゃらないのでございますね。それならば、わたくしはもう待ちませぬ」手をつき、頭をさげたあとにあげた顔は、ひどくさっぱりとしたものだった。
『男』は口をむすび、何度もうなずくと、姿が薄く―― なるのかと思ったのに、その場にとどまった。
「こういうときって、成仏するんじゃないのか?」
おもわず口にすると、『男』はこちらをむいて、それはそれは楽し気に、大口をあけて笑った。
その様子もつたえたら、驚いたことに女も声をあげて笑い、おつきの女までもが笑い出した。
「うちの旦那様は、ほんとうに、―― わたくしを好いておいでなのです」
誇らしげに、照れもなく口にした女をみつめる『男』も、勝ち誇ったようにうなずいた。
「 ―― ですから・・・、『みえる』だけでもいいのだと。わたくしはそこではじめて思えました。それだけであっても、なにかの《縁》ができて、だれかの救いになることもある、と。 ヒコイチさまなどは、そこに《居る(おる)》だけで、なかったはずの《縁》をつくることもできますでしょう。ですから、―― こたびも、セイベイさんを通じて、こうしておこしいただいたわけでございます」
ながいはなしを終えたように肩のちからをぬいた年寄は、湯呑をとると一気にあおった。




