みえるかた
「・・・残念ながら、自分がみえるという人にあったことはございませんが、何度めかの集まりのときに、《そういうもの》をつれてきているかたがおられまして・・・」
三十路をすぎたあたりのどこか身分が高そうな女だった。
雑多な人のあつまりに慣れていないようで、おつきの女とだけ不安げに言葉をかわす。
その女のそばに、うろうろとまとわりつく《男》がいた。
着物姿で薄くぼんやりした影のようだが、消えることなくずっといる。
おもわずじっとみてしまったダイキチは、その《男》と目があった。
「ぞっとするわけでもなし、ただ、むこうもおどろいた顔をしましてね」
それにおもわず笑いそうになると、男がこちらへむかい、口をうごかしはじめた。
声らしきものはきこえないが、なにやら、その女を指でさして、わめいているのが感じられる。
ダイキチはそれをじっとみていたものだから、不安げな女がなにやら勘違いしてみつめかえしてきた。
おつきの女になにかささやくと、そのおつきがダイキチの祖父のもとにきて、なぜうちの奥様をにらむのか、とおこったようにきいた。
しかたなくダイキチは祖父にわけをはなした。
そばでその言葉をきいていたおつきの女が、口をあんぐりあけたあと、「おくさま!」と転がるようにむこうの女のもとへもどった。
その日の百物語の集まりからぬけたダイキチたちは、女に案内された料亭で、深々と頭をさげられた。
とまどう祖父に、女はかみしめるように、「あのような集まりにときたまいらっしゃるという、《死者がみえる》というかたを、さがしていたのでございます」とダイキチをみた。




