迎えはまだか
「なに、商売仲間ではきっとわたくしだけでしょう。 セイベイさんは幼馴染ですから当然でしょうが、こちらへ声をかけてくださったのは、―― じつはわたくし、すこしばかりそういうものが、《みえる》質なもので」
「みえる?」
「ええ。 ですからあの黒猫をセイベイさんのお店の近くでみかけたとき、もしかしたら、とおもいまして」
セイベイさん、カンジュウロウさんは、
―― ずいぶん小さくなりましたなあ
そう言ってみたら、障子のむこうから『おれのことがわかるのか』と、つまらなさそうなだみ声がして、そのあとに街中ででくわした黒猫に、『ダイキチさん、まだ迎えがこないかい』と顔をあらうついでのように声をかけられた。
「あのじいいだってちゃんと迎えがきてねえってのに、よくもそんなことを、」
「いやヒコイチさまはまだお若いからそうおっしゃるが、わたくしらのようにおもってもみない時間を最後にあたえられた年寄は、迎えはまだか、ってのはおたがいおもいやっての言葉なんですよ」
うれしそうに口にしたあと、あがった目がヒコイチと合う。
なるほど、こりゃあ・・・。
年寄の眼玉が、ぐうう、とこちらにはいりこむような感覚がおこる。
「おっと、―― これはいかん。ヒコイチさまは《ひきよせ》がお強いのだな。だから、―― 不思議がよってくる」
「《ひきよせ》?」
耳なれないそれをききかえすと、いやわたくしが勝手にそうよんでるだけで、とわらって手をふる。




