こう、
『西堀』の隠居に、友達であるヒコイチが、しりあいの池にでる『煙』をみてほしい、という願いからはじまる寒気のするはなし。
また夏のはなしになってしまいました。
こう、ゆらゆらとした感じでな、と年寄はそろえた指先を左上から右下へ、ゆらして落とした。
なにがゆらゆらだ、とヒコイチはてぬぐいで首すじをぬぐう。
「ゆらゆらしてるから、そのまま言ったんだよ。こう、なんだか、消えそうでたよりない、というか、なかなか消えない、というか・・・」
言いながら自分のそろえた指先を見つめ、うむ、とうなる。
みゃあ、と。
年寄の膝に抱かれた黒猫が鳴いた。
猫と目を合わせたヒコイチが、背をこごめて顔をぐっとつきだす。びくりとした猫が前足をつっぱねる。
「おい、おめえは本当に、ただの猫だろうな?」
にらみをきかせれば、猫はぱっと身をひるがえし、障子のひらいた縁側へとのがれた。
「おまえはアレに嫌われてるようだね」
年寄がかわいた笑い声をあげ、庭からこちらをうかがう黒い子猫を微笑ましげにみやる。
「けっ、べつにどうだっていいや」
「 《カンジュウロウ》 とちがって、どう動くかわからないのが、おもしろいよ」
その『カンジュウロウ』というのは、あの子猫とおなじように黒い猫なのだが、『中身』は死んだはずの乾物屋のじいさんで、生前から仲の良かったこのセイベイのところで飼われている。
「 ―― 乾物屋が、拾ってきたってほんとかよ?」
「ああ。親猫みたいにくわえてきたよ。 どこかで死にかけた母猫のそばにいたらしくて、くさくって弱ってたけど、うちはみんな猫にあまいから、きそって世話してね」
いいものばっかたべさせてたよ、という年寄りもヒコイチに、売り物で『滋養のつくものはないかと』きいてきたのを忘れているようだ。
子猫は庭の植木の間にきえた。
池のはたには小さな祠がたち、水面にちらちらと夏の陽がはねかえっている。
「―― 蓮の花が、好きなようでね」
セイベイは話をもどした。
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