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#4 見てしまった


 僕は見てしまった。自分の教え子が魔法少女になる瞬間を。そして、戦闘の一部始終までも。

 帰路を歩きながら今日の夕飯のことを考えていたら、突然、魔獣の反応。なんだと向かってみたら、歌恋ちゃんが変身していた。

 ――彼女は、僕に対する態度こそよくはなかったが、優しくていい子だった。

 いままで家庭教師の僕を邪険に扱ったりはしたけど、意図して傷つけようとしたことはなかった。

 ミカちゃんとして接してるときなんて、大人しくて優しくて、心は大人だった僕ですら尊敬してしまうような子だった。

 それなのに、そんな……魔法少女の暗黒面に落ちてしまうなんて……。

 ――魔法少女は基本的に変態だ。

 普段それが顕在化することは……あまりない。ある場合もあるけど、それは本人の問題だ。たぶん。

 問題は、魔法少女に変身した後のこと。つまりは戦闘中。

 一言で説明するならば、「理性のタガが外れやすくなる」。というか「外れる」。

 ちなみに、魔法少女になったときに一緒に頭の中に流し込まれた知識によると、魔法少女の力、つまり魔力の源は「抑圧されたリピドー」とのこと。それを心の中に隠し持ったものでなければ魔法少女にはなれないという。

 ――抑圧されたリピドーとは、いわば特殊性癖なのだろう。

 それが意味するところ、すなわち。


 歌恋ちゃんの本性は、狂気のサディストだったのだ!


 本人もその事実には気づいていなかったのだろう。そうだと信じたい。

 僕もはじめて変身したときは、女の子になったという興奮と自分が女の子になりたい感じの特殊性癖を持つ変態だったという困惑で頭がいっぱいになってしまっていた。

 きっと、正気に戻った彼女も混乱してしまうのだろう。かつての僕がそうだったように。

 いや、もし自身が特殊性癖を持つ変態である事実を受け入れられなかったら、闇堕ちしたり暴走したりする可能性もある。最悪の場合、死――。

 そこまでが頭をよぎったとき、僕のやることは決まった。

「マジカルチェンジ、キューティルナ」

 ポケットからコンパクトを取り出してさっと開き、鏡に自分の顔を映してこそっと唱える。

 体は光に包まれて。

「月とカワイイの魔法少女・キューティルナ、こっそり参上っ♪」

 ……ほんの数秒だけなら、理性もきっと働いてくれる。疲労もわずかで済んでくれるはずだ。

 しかし、名乗りで気付かれたらしい。こちらを振り返り、獰猛に襲いかかろうとする青い魔法少女。

 冷静に、息を吸って、吐いて、バトンを構え。


「マジカル☆腹パンビーム!」


 集中させた細い魔力の閃光。拳型に形成された光はこちらに向かう女の鳩尾を捉え――。

「グエッ」

 ――殴った。花弁が散った。

 魔法少女は気を失うと変身が解除される。暴走などの異常時でなければ、魔法少女体がいくら攻撃されたところで死ぬことはない。

 すなわち、狂気の魔法少女ラブリィアクアは気絶したのである。

 その肉体は花弁が散るように元の女子小学生の身体に戻っていく。

 ……ぼくも理性が飛び始める前に変身を解除。

 大きくなった体で歌恋ちゃんを背負って、彼女の自宅――間宮邸に連れていくのであった。疲れきった体を引きずるようにして。


    *


 あれ?

 わたし、なにしてたんだろう。

「歌恋、気が付いた?」

 そこにいたのは、美愛おねえちゃん。

 ……ベッドに寝てたんだ、と遅れて気付く。

 でも、どうしてだろう。

 最後に覚えてるのは、わたしが魔法少女に変身したところ。そこから先のことはぼんやりしててよく覚えていない。

 そのときは確か、外にいたはず……。

「わたし、なんでここに……」

「望月くん……朔先生が運んでくれたのよ」

「えっ?」

 お姉ちゃん曰く、先生は帰ろうとしたところで忘れ物に気付いて引き返す最中に、何故か気を失って倒れているわたしを見つけたそうで。

「だめじゃない。いくら先生に告りたかったからって窓から飛び降りたりなんかしちゃ」

「ふぇ!?」

 まったく別の理由だったはずだと思うけど……たぶん、お姉ちゃんが早とちりしたんだと思う。

 あんまり魔法少女のことは話さないほうがいいんだろうな。そう思った。

 それにしても、魔法少女に変身してから、わたしに一体何があったんだろう。

 知りたいけど知ってはいけないような気もして、なんだかもやもやする。

「ちょっと寝てるね」

「わかった」

 おねえちゃんは部屋から出ていく。

 そして、一人になった部屋、わたしはベッドに腰掛けて、胸元からペンダントを取り出した。

 ……どんな秘密があるんだろう。この魔法の力に。

 ピロリン、とスマホの通知。見ると、ミカちゃんからわたし宛のメッセージ。

<明日、二人だけで会いたい。いいかな>

「い、い、よ……っと」

 返信したときには、もう時計の短針は九を指していた。わたしはあくびを一つして、さっさとベッドに入ることにした。


 ――知らないほうがよかったこと。人生で何度、知るべきでないことを知ってしまうことがあるだろう。

 そのとき、わたしは知らなかった。

 魔法の力に隠された最低の秘密と、わたし自身の本当の姿を――。


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