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第3話 新庄

「な、なにやったんだ、てめえ!」


 新庄が吹き飛んだのを見て、七人が俺を取り囲み、二人が新庄を救出に行った。

 彼らは手品などとでも考えているのか、俺のやったことに対して驚きと怒りを露わにしている。

 

「ただ軽く触れただけだ」


「触れただけで人が吹き飛ぶわけねえだろ!」


「ぐっ……パシリがぁ!」


 フェンスから助けられた新庄が俺を睨み付ける。

 とりあえず生きていることに俺は安堵しつつも、周囲の奴らを見て辟易していた。


「お前らな、寄ってたかって人をイジメてんじゃねえよ。一人じゃなにもできないのか? いや、一人でもダメなんだけどさ」


「何言ってんだ!?」


「言葉の意味が理解できないか? つまんねーことすんなって言ってるんだよ」


「意味ぐらい分かるわ! なめんじゃねえぞ、このパシリ!」


 七人が同時に俺に襲い掛かってくる。

 俺は嘆息しつつ、相手を迎え撃つ。


 一人目の拳を避けつつ相手の頭部を拳の側面で殴りつける。


「ぐあっ!」


 そいつはあっさりと意識を失い気絶する。

 続いて二人目、三人目が左右から俺を襲い掛かろうとするが――

 彼らの攻撃が届く前に、顎先を軽く小突く(・・・)


 目を回して倒れる二人。

 その様子を見た、残りの四人の顔色が変化する。


「ど、どうなってんだ……こいつ、パシリだよな?」


「パシリのくせに……なんでこんなに強いんだよ?」


 さっきまで強気だった男たちは、恐怖と驚きに青い顔をして固まってしまっている。

 俺はその隙に彼らの首元に手刀を入れていく。


 バタバタと倒れる男たち。

 新庄の方を見ると、信じられないことを見たかのように目を点にさせていた。


 それと同時に、新庄を助けていた二人は全速力で屋上から逃げ出してしまう。


「あ、おい、てめえら!」


「ははは。薄情な奴らだな。仲間を見捨てていくなんて。お前って人望ないんだな」


「な、なんだと……」


 俺のことを命がけで守ってくれる人はいた。

 まぁ、状況が状況だったらかそれと比べるのもなんだと思うが、それでも仲間を見捨てるようなやつは周囲にいなかったよな……

 俺は少し前のことを思い出しクスリと笑った。


「お、お前……俺に何するつもりだ?」


「ん?」


 俺が笑ったこと……どうやら新庄は、俺が危害を加えようとしていると捉えたのだろう。

 恐怖に顔を引きつらせている。

 そんなつもりはなかったが……ここはイジメられていた復讐も込めて、少し痛い目に遭わせておくとするか。

 その方がこいつのためにもなりそうだし。


「そんなの決まってるだろ……復讐だよ、復讐」


「お、俺に手を出さねえ方がいいぜ……俺に兄ちゃんがいるの知ってるだろ?」


 新庄の兄……

 暴力団紛いのことをする凶悪な人物として、この界隈では有名な男だ。

 その兄の存在をほのめかせ、学年のトップを取ったのがこの新庄である。

 周囲にいる誰もが新庄に怯え……もとい、彼の兄に怯えて、従っているというわけだ。

 

 かく言う俺も新庄の兄の存在に怯えて、なされるがままだったのだけれど……


 だが、今となってはなんてことない存在。

 この世界で強いなんて、たかが知れている。

 さすがにレベルが違い過ぎて話にならない。

 格闘技の世界チャンピオンが虫に負けるわけないだろ?

 きっとそれ以上に力の差はあるはずだ。


 だから俺は吹き出しそうになりながら新庄の問いに答えた。


「知ってるけど、それがどうしたんだ?」


「し、知ってたら俺に手を出さない方が……」


「知ってても手を出すんだよ。お前みたいな奴は一回痛い目に遭った方がいいからな」


「な、ちょ……何すんだてめえ!」


 俺は倒れている新庄の体をひょいっと片手で持ち上げる。

 奴はその腕力に驚き、そして恐怖心でいっぱいになったのかガタガタと震え出した。


「な、何するつもりだ……お願いだ、やめてくれ……」


 俺はニヤリと笑う。


「止めるわけないだろ……お前には散々酷いことをされてきたからな」


「た、助けてくれ……頼む、俺を助け――」


「お前も怖いって気分を味わってみろ」


 俺は笑顔のままで新庄の体を放り投げる。

 新庄の体はフェンスを飛び越え――屋上から飛び出し地面に向かって落下を始めた。


「うわあああああああああああああ!!」


 頭から落ちて行く新庄。

 そのまま落下を続け、放っておけばあいつのあたまはトマトのようにつぶれてしまうだろう。


 しかし奴が地面に落ちる寸前に俺は助けに入る。

 新庄が落ちるポイントに高速で先に移動し、頭が地面に触れるか触れないかのところでキャッチしてやった。


「あ……あああ……」


 俺は新庄の身体を支えてやっていたのだが……なんと奴は、尿を漏らしてしまった。

 汚ねえなと思いながら手を放すと、新庄は腰を完全に抜かしており、とうとう涙まで流し出す。


「これでやられる側の恐怖も分かったろ。もうくだらないことするんじゃないぞ」


 新庄からの返事はない。

 呆然としながら、何度も頷いていた。


 俺は少しスッキリした気分で踵を返す。


「あ、今時間は何時?」


「あ……お昼……12時過ぎです」


「ありがとう」


 新庄にそれだけ聞き、俺は校門に向かって歩き出した。


 さすがにこの恰好で授業を受けるわけにはいかないからな……

 今日は帰るとしよう。


 校門を抜け、学校から出る俺。

 すると目の前に、桃色の髪の幼女の姿があった。


「蒼馬」


 俺は唖然と固まり、その子の姿を凝視していた。

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