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第19話 コレットとアパートの住人たち

「うーん本当に狭いですね」


「だから言ったろ。狭いって」


「それに汚いですね」


「それは俺の責任だ。片づけがどうも苦手でな」


 この間片付けたはずなのにすでにゴミと服が散乱している状況。

 コレットはそんな部屋を見てしかし笑顔を浮かべる。


「これでこそ仕事のやりがいがあるというものです。私は蒼馬様のお世話をするためにいるのですから」


 鼻歌交じりでゴミを見るコレット。

 傍から見たらちょっと危ないような気もするが、だがそんなことはない。

 コレットは向こうの世界では俺の身の回りの世話をずっとやってくれていたのだ。

 

「牛。掃除早くして」


「あはは。モモー。私は蒼馬様の従者であって、あなたのために来たわけじゃないのよ?」


「じゃあ俺から頼めるか?」


「喜んで! 今すぐ掃除を開始しまーす!」


 猛スピードで掃除を始めるコレット。

 瞬く間に部屋が綺麗になっていく。


 その光景を見て俺は感嘆の声をあげ、モモはタブレットで動画を見ていた。


「おい。おぬしの従者が来たそうじゃな」


「ちょっと蒼馬。どんな人が来たんだい? ボクに紹介してよ」


 コレットが掃除をする中、部屋に登場する勇者と魔王一行。

 いきなり部屋がぎゅうぎゅうになってしまう。


「ああ。ちょっといいか」


「なんでしょうか?」


 コレットは俺の声に笑顔で反応するも――エレノアやマナたちの顔を見て殺人鬼のような表情を浮かべる。

 その迫力、そして彼女の持つ実力を感じとってか全員が青い顔をしていた。


「な、なんじゃ、この女! ちょっと怖いんじゃが……」


「これ、誰ですか? 蒼馬様とどういう関係ですか?」


「ほら。さっき言ってた魔王だ。で、こっちが勇者」


「は、初めまして……」


 勇者と魔王がミノタウロスに怯えているの図。

 俺は苦笑いしながら、そんな様子を眺めていたのだが……

 

「ム、ムトー! マナ様を守るのだ!」


「おう!」


 何を勘違いしたのか、慌てたミルヴァンはムトーにマナを守るように命じる。

 狭い空間の中、マナの前に出るムトーはコレットと対峙した。


「女! マナ様に危害を加えるつもりなら、俺の力が火を噴くぞ!」


「勝手に噴かせておけばいいんじゃない? あんた程度の力じゃ、私に火傷一つ負わせることもできないでしょうけど」


 腹を立てたのか、ムトーは怒気を含ませた表情でコレットに掴みかかる。


「コレット。怪我させるんじゃないぞ」


「はーい。分かりました」


 コレットは少し面倒くさそうにムトーの伸びる腕を片方はたき、そしてもう片方の手を取り握手する。


「蒼馬様の命令だから怪我はさせないけど、皆よろしくね」


 ニッコリ笑うコレットであったが――握手した片手で軽々と大きなムトーの体を持ち上げている。

 その光景に全員が唖然とし、ムトーに関しては自信喪失したかのように真っ青な顔をしていた。


「ど、どうなっておるんじゃ、おぬしらは……こやつは我が国における最強の腕力の持ち主。それを軽々と制してしまうとは……」


「蒼馬も強いと思ってたけど、仲間も強いんだね……」


 空気は完全におかしなものになっていた。

 俺はコレットの頭にポンと手を置き、修正にかかる。


「コレット。こっちでは暴れるのは禁止だと言ったよな?」


「そうでしたね……申し訳ございませーん」


 笑顔のままで俺に頭を下げ、ムトーの体をゆっくりと下ろすコレット。

 そこで間髪入れずメグが俺たちに聞いてくる。


「で、その子の名前はなんて言うの?」


 さすがはコミュニケーション能力がずば抜けているメグ。

 空気は徐々に変化し始める。


「牛」


「へ、へー……変わった名前だね」


「適当な教え方すんじゃねえよ、ガキ! 私は牛じゃねえって何度も言ってるだろが!」


 素が出てるぞ、素が。

 俺はコレットをなだめながら皆に説明する。


「こいつはコレット。モモは人の名前を覚えるのが苦手なんだよ」


「そ、そうなのか? だがおぬし、蒼馬の名前は憶えておるではないか」


「蒼馬は特別。すぐに覚えた」


 コレットは冷静になり、咳払いをしながらモモに聞く。


「ちなみにここにいる連中のことはどんな風に覚えてるの?」


「これは勇者。これが白髪で能天気、筋肉、眼鏡」


 ちなみに順番にエレノア、ミルヴァン、メグ、ムトー、モリーだ。

 なんか分かりやすい覚え方してるなぁ。


「ほう、一応は余たちを認識しておるようじゃな。で、余のことはどうやって覚えておるのじゃ?」


「貧乳魔王」


「そんなに貧乳は目立っておらんじゃろ! 魔王だけでよいのじゃ! それがいいのじゃ!」


「でも魔王、貧乳が目立ってるしねー。仕方ないよねー」


「目立ってないわ! どちらかと言えば可愛い方が目立っとるわ!」


「まあまあマナ様。貧乳でもちゃんと生きてる人は沢山いるんですから……ドンマイです!」


 メグの言葉に爆発するマナ。


「なんでおぬしは余をフォローせんのじゃ! 余はまだ貧乳なだけじゃ! 現在貧乳(巨乳予定)なだけ!」


「妙に騒がしい連中ですね」


「ははは。でも楽しくていいだろ?」


「うーん……私は蒼馬様がいればそれでいいですけど」


 ギャーギャー騒ぐマナとやり合うエレノア。

 コレットはそんな二人を面倒くさそうな顔をして見ていた。

 

 頼むから仲良くしてくれよ……と思うが、コレットは怒ると収拾がつかなくなるからな……

 だからせめて、コレットを怒らせないようにと願うばかりだ。

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