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72話 復讐


遠くで紫の閃光が爆ぜる。爆発にベン・レファーが反応し、ロルビスから僅かに気が逸れる。

その瞬間、ロルビスは右足をベンの顔面に勢いよく打ち込んだ。

「うおっ」

不意を突かれたベン・レファーが手の握力を緩めた。その隙にロルビスは魔法陣を描き、風の力で後ろに後退した。

「…………違ったのかな?」

ベン・レファーは己の手の平を眺めながら何か呟いている。


こちらに注意が向いてない内に距離を取り、状況を整理する。

機動要塞は倒れた。あの紫閃で王都が丸ごと消し炭にされる心配はないはずだ。

周囲にベンの仲間は見当たらない。敵は一人。

こちらの仲間はほぼ やられている。セルレーナとヘルヴィアは気絶し、ユーミラは意識はあるが(ダメージ)が大きく起き上がれない。

実質、ロルビスとベンの1対1。無意識のうちにロルビスは頬を伝う汗を拭っていた。

(かつ)てない程、今の戦況は緊迫している。本能が最大限の警鐘を鳴らしているのだ。

目の前の、たった一人のダークエルフに。


だがそれよりもロルビスが警戒しているのは、あの魔力。いや、そもそもあれを『魔力』と呼んでいいのだろうか。

蒼く、黒く、不気味なオーラ。

魔力だが魔力ではない。かと言って魔法でもない。

魔法、もしくは魔力が変質した何か。

既存のもので出来た新規の何か。

ベン・レファーに首を掴まれた時も、あの黒い魔力(オーラ)が流れ込んできた。


あれは、あまりにも異質だった。


「これが気になるのかい?」

「……………………」

前触れもなく、問いかけられる。

それに対しロルビスはすぐに返答できなかった。

ベン・レファーは己の身体を這う黒い魔力を手で弄びながらロルビスを見つめている。

数秒の沈黙の後、ロルビスはようやく質問を返すことが出来た。

「それは……何ですか?」

「魔力だよ」

返答は早い。からかわれた、と思ったがベン・レファーは至って真面目そうに答えている。

「疑ってるのかな、でも事実だよ。これは魔力だ」

「どうでしょうか。それは魔力と呼ぶにはあまりに異質です。なによりそれは『魔法』の──」


「───じゃあ君は、魔力が何なのか知っているのかい?」


ロルビスの言葉を遮って放たれた一言は、ロルビスもすぐに考えが思いつかないものだった。


魔力とは何か。考えもしなかった。

生まれた時から共に在るもの。それが普通で自分の身体の一部だと思っていた。ただそれだけのものだと。

「そんな考えすら浮かばなかったって顔だね」

表情を読まれたのか、図星をつかれる。

「ま、いつの時代もそうだよ。魔力を使って“なにが出来るのか”ばかり研究してる。そっちの方が好まれるんだろうね。施設、人材、費用、あらゆるモノが足りなくて打ち切りになった研究をいくつも見てきたよ。『使用』ができるだけで『理解』した気になって、そもそも魔力が何か知ろうとしない」

「……まるであなたは知っているかのような口振りですね」

「いいや、僕も完璧には理解はしてないよ。ただ君達より多少は詳しいだけさ」

溢れ出る黒い魔力。それを見たロルビスは臨戦態勢に入る。

直後、ロルビスを影が覆った。真上からの攻撃だ。


「──オラァァァァァッ!」


振り向くよりも先に横に飛び退いた。

チラリと横目で見えたのは、巨大な戦斧(バトルアックス)を持った(ツノ)が生えた男だった。

振り下ろされた戦斧は地面を砕くかと思ったが、音もなくなめらかに地面へ吸い込まれた。

「やっと会えたなァ! ロルビス・クロス!!」

角が生えた男の咆哮が響き渡る。

だがロルビスは男が発した言葉に小首をかしげるしかない。ロルビスはこの男との面識がないのだから。


いや、面識はないが どこかで見た顔だ。筋肉隆々の肉体に、その肉体を流れる ガサつそうな見た目からは想像出来ないほどの洗練された魔力。そして聞き覚えのある声。

なにより、あの(ツノ)

薄々、気づいてはいた。

「覚えてるかァ? テメェが殺した鬼人の事をよォ!」

男の一言で確信に至る。

ロルビスが殺した魔王軍幹部オルガス。そしてオルガスにそっくりな容姿を持つ男。

あの鬼人はオルガスの血縁者だ。

「オルガスのことはよく覚えてますよ。あの鬼人(ひと)はとても強かった」

「ああ、そうだろうなァ。そして俺はエゼルス。オルガスの弟にしてテメェを殺す鬼人(おとこ)の名だ」

エゼルスは殺気を剥き出しにして名乗った。


「ロル殿……」

「ユーミラさん」

そこでユーミラがやってきた。後ろにはヘルヴィア、セルレーナが続く。

「大丈夫なんですか?」

「ああ、速度に対して痛みが少なすぎた。相当手加減されていたらしい」

そう言ってユーミラはベン・レファーを睨みつけた。

「三人共、聞いてください」

同じくベン・レファーを睨みつけながらロルビスは静かにつぶやいた。

「あの鬼人はともかく、後ろのダークエルフは無理です。三人一斉に──」


「──いいのかよォ? お喋りしてて」


話を遮られたロルビスがやや腹立たし気にエゼルスを見る。

「どういう意味ですか?」

「俺らはまだ全部の戦力を見せてないぜェ?」



その瞬間、三箇所で爆発が起こった。



「第二陣が来たぜ」



たちまち黒煙が狼煙のように立ち上る。そして聞こえてくるパニックになった人々の声。

ロルビスは脳をフル回転させ、状況の分析を行う。


すなわち民間人を見捨てるか、仲間を行かせて助けるか。


人によっては究極の二択。

仲間を行かせるということは、エゼルスと後ろでニコニコと不気味な笑顔を浮かべる死神のような男に単身で立ち向かうということ。

だが、全員でベン・レファーに挑んでも全滅の可能性がある。自殺行為も同然なのだ。

仲間とともに自殺するか、自分1人で自殺するか。

そう考えれば答えは自ずと出てくる。


「三人は民間人を助けに行ってください」

「兄さん、それは──」

「頼む」

そう静かに頼んだ。


ロルビスにとって、これは自殺宣言と同じ。

ここで自分を犠牲にする。それがロルビスの選択。

既に自分が助かるという選択肢は脳内から消えていた。それほどまでにロルビスにとって自分の命は軽いものだった。


ここが死に場所だ。


決意は固い。

「でも、でもッ、それだと兄さんが!」

やはりセルレーナが待ったをかける。ユーミラとヘルヴィアは何も言わないが、内心で同じことを思っている。


「──じゃあ僕は手を出さないよ」


そこで放たれる救いの一言。

困難を解決したのは困難の原因だった。


「そう言ってるし、ほら」

ロルビスは再び説得する。

先程の言葉は本当かもしれないし、嘘かもしれない。嘘ならロルビスは確実に死ぬ。

だが今は三人が離れてくれればそれで良かった。

「セルレーナ殿……」

ユーミラが肩に手を置いた。

しかし、セルレーナの足は動かない。

その状況がしばらく続き、ようやくセルレーナが一歩を踏み出した。


三人はそれぞれ煙が立ち込める方に散って行った。


「終わったか?」

律儀に待ってくれていたようだ。どうやらエゼルスはロルビスとの一対一に拘っていると見える。

エゼルスは戦斧(バトルアックス)を地面から引き抜いた。間違いなくあれはただの戦斧ではない。何かしらの術式が刻まれているはずだ。

地面に何の抵抗もなく吸い込まれたのを見るに『切味強化』などの術式だろう。

持っている武器の強力さが示すように、その目にも驕りはない。

ロルビスが魔法(才能)使えない(無い)ただの半端者と理解した上で(いど)むつもりらしい。相手(エゼルス)の油断は期待できない。

「ベン・レファー! オメェは手ェ出すなよォ!」

「はいはい、わかってますよー」

忠告されたベン・レファーは素直に従った。その場から少し離れると地面に座り込んだ。

二人がどのような関係なのかは知らないが、ベンは加勢しないというのは本気のようだ。

正直、ありがたい。


ロルビスはエゼルスの後方に目を向けた。

ここからやや遠くに離れた位置に魔剣(アヴウェノシア)が落ちている。

魔剣が落ちているのはベン・レファーのすぐ足元だが取りに行くべきか、取りに行かず魔法のみで戦うべきか、二択を迫られる。

ロルビスの視線に気づいたのか、ベン・レファーが手招きした。『取りにおいでよ』とでも言うように。


おそらく取りに行っても攻撃されないだろう。そしてロルビスの勝率は僅かに上がるだろう。

そう思っていても取りに行こうとは思えない。

近くにいるだせで恐ろしいのに、もし魔剣を拾った時にふと見上げるとベン・レファーと目が合う───そう想像するだけでも、恐ろしいのだ。


「なによそ見してんだァ? テメェ」

ロルビスは視線をエゼルスに戻した。

今の隙を突いて強襲できたはずだが、エゼルスは変わらず立っている。

ニヤニヤと、凶悪な笑みを浮かべながら。

「俺はよォ、『復讐』しにきたんだぜ。兄貴を殺したテメェを絶望の淵に叩き落してからブッ殺すためによォ」

だから何だと言うんだ、とロルビスは一蹴して状況整理に費やした。

「まだわかってねェようだな。あの機動要塞はどこから来た? どの方向だ?」


(方向?)


ロルビスは機動要塞に目を向けた。

その方向は──


「───ディグレ村……………」


「やっとかよ」

エゼルスは何かを持っていた。

戦斧を持っていない方の手に、エゼルスほどの大きな手の平に収まりきらないほどの。

「次はテメェの家族だ。妹、姉、その次は仲間。それぞれ殺せるだけの『戦力』を集めてきた」

エゼルスは手に持っていたものをロルビスに向かって放り投げる。

それはぶどう畑の生い茂る小さな村で、何度も見た色。

それはコロコロと転がってロルビスの足元に来た。



それは、とても見覚えのある紅色の髪だった。



(さァ、お前はどんな顔を──)

エゼルスが期待したのは、哀愁に染まったロルビスの表情だった。たった一瞬、わずかにでも哀愁(それ)が引き出せればいいと思っていた。

その後に憤怒(ふんぬ)義憤(ぎふん)憤懣(ふんまん)が現れれば上々だと。



だがロルビスは、無表情だった。

冷静に、冷徹に、足元の生首を見下ろしていた。

「なんだよ、怒らねェのかよ。興醒めじゃねェか」


虚空で魔法陣が輝いた。

「いいえ、怒ってますよ」

火炎の弾丸が迫る。エゼルスはそれを戦斧で迎え撃ち、切り裂いた。

そして、ロルビスは一言。



「──冷静じゃないと、貴方を殺せませんから」




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