70話 君に会いに来た
「ワォ、思ったよりも凄い威力だぁ☆」
ウキウキと少女は呟く。眼前の魔導投影機には両断されたフェンバリックの王都が映っている。
たった今、何千人も殺した事を何とも思っていない。
「さすがは『砲台』の役割を持つ古代兵器だね」
少女の背後からそれを見ていた男も呟く。
二人は惨劇を見ても動じず、その光景をただ眺めている。
それも当然だろう。惨劇を生み出したのは他ならぬこの二人なのだから。
「けど、いいのかい? もう少し軌道がズレていたら彼に当たるとこだった」
「大丈夫、ちゃんと計算してたから☆」
少女のツインテールにした金髪が、感情を表すかのように揺れている。彼女が無意識で身体を揺らしているのだろう。
それを白髪のダークエルフが後ろで見ている。
「よーし、次は『拡散砲』使おう。『集中砲』は威力ありすぎぃー☆」
「ちょっと待って」
少女の肩に男が手を置いて制止した。
「やりたい事があるんだ。潰すのは後にしてくれないかな」
「へー、珍しいね。ベンちゃんが『殺りたい事』以外に『やりたい事』があるなんて。妬けちゃうなぁ☆」
「ハハ、君の興味は彼にしか向いてないでしょう?」
「うん!」
元気よく答えた。
サラッと自分に興味が無いと言われたが、男は気にした様子はない。
「まあ、どっちにしろしばらく冷却時間が必要だから遊んできていいよ。冷却時間が過ぎたらすぐ撃つから、死んでも恨まないでネ☆」
「はいはいわかってるよ。それじゃ、挨拶に行きますか」
そう言って男は『部屋』から出ていった。
□ □ □ □ □
巨大な『影』の足元で蠢き、ギラギラと銀色に輝く何か。
それらは津波のように王都へ押し寄せてきた。
まず思う事は、数が多い。
一直線に王都へ向かって来るからいいが、周辺の村や町を攻撃されていたら被害は甚大なものになっただろう。
次は見た目が気持ち悪い。
六本足と甲殻。無数の赤い目。名付けるなら魔法蜘蛛人形といったところか。
先程の紫閃によってできた道をガシャガシャと機械の足音を鳴らしながら走行する。
押し寄せる魔法人形の津波。
ロルビス、セルレーナ、ユーミラ、ヘルヴィアはその進行方向に立ち塞がる。
その中でも最も火力の高い精霊使いが前に出た。
「…………お願い、来て」
魔法人形の軍勢が王都の目前まで来た時、セルレーナは精霊を呼び出した。
確かな存在感を持つものが二つ、虚空に現れる。
ロルビスやユーミラのような魔法適性が低い者ですら感じ取れるほどの圧。
しかし、圧倒的な存在が権限してもなお魔法人形は立ち止まらない。
真っ直ぐ、焼け焦げた道を突き進む。
「さあ、行くよ」
セルレーの一言で圧倒的な存在が、ただでさえ濃かった魔力の中から、さらに魔力を放ち始めた。
「うっ………」
過剰感知体質のヘルヴィアが膨大すぎる魔力に気圧される。
だが、セルレーナは構うことなく使役した。
そして、魔法を放ったのは土の精霊。
四人の前で大地が盛り上がり、押し寄せきた魔法人形を押し返していく。
魔法人形は堪らず、大地の流動によってひっくり返されて転ぶ。
そのまま押し返され、転がされながら魔法人形の軍勢は一気に王都の遙か外へと押し出された。
そこで大地の流動が動きを変える。押し出すような動きから、王都の周囲を囲むように。
ものの数秒で、巨大な王都を囲む防壁が完成した。
「…………すごいなぁ」
ロルビスは感嘆する。ここまで規模の大きな魔法を起こせるのは勇者くらいだろう。
「この壁はどのくらい持つ?」
「少なくとも今すぐは壊れませんよ」
ユーミラの問いに、セルレーナは淡白に答えた。
二人の会話には少し剣呑さがある。ユーミラがロルビスに求婚したと聞いた時、セルレーナは無表情になっていた。
だが、あれは誰にでもわかる。怒っていた。間違いなく。
ユーミラとセルレーナが戦えば辺り一帯は荒野と成り果てるだろう。せめて今は仲間割れしないでほしい。
「えっと、じゃあ、セナはこのまま壁の維持を頼む」
「はい、兄さん♪ 任せてください。私はどこかの怪力女と違って加減も出来るし、魔法も使えるし、技術もあるし、料理も出来るし、品もあるし、愛もありますから」
「ほう? それは喧嘩を売って──」
「ユーミラさん は壁を登ってきた魔法人形の排除をお願いしますッ!!」
「……む、わかった」
不穏な空気になりそうなので、早口でロルビスは指示した。
「ヘルヴィアさん は俺と来てください。あれの主犯格を叩きます」
「ロルビスさん、やはりあれは……」
「ええ、機動要塞です」
ロルビス達が攻略した機動要塞。それとはまた別のだ。
ユウトが所有者となったヤドカリ型は武装兵器などはなく、資材や食料が大量に異空間倉庫にしまわれていた。
おそらく移動や運搬を目的として作られたのだろう。
だが、あの機動要塞は『殲滅』を目的として作られているのは間違いない。
「機動要塞があって、それが使われているならどこかに『攻略者』がいるはずです。そいつらを──」
「──その必要はないよ」
突如、横に気配が若い男の声と共に現れる。
その場にいた全員が気づけなかった。
否、気づいていた者が──存在がいた。
セルレーナの精霊だ。精霊達は気づいた瞬間、契約者を守るために動いていた。
水の槍と土の槍が現れる。
魔法の形成速度は刹那だった。ロルビスなら同じ速さで形成出来るだろうが、他の魔法使いならこうはいかない。
「おっと」
しかし、防がれる。
誰よりも早く反応した精霊が、生み出した魔法を、軽く腕の一振りによって。
そして二振り目でセルレーナの意識を刈り取った。
「───あッ!?」
セルレーナの華奢な身体がふっ飛んだ。
「セナッッ!!」
妹の危機に兄がいち早く反応する。
ロルビスは腰から魔剣を引き抜き、突然現れた気配に目掛けて振った。
「うん、遅い」
剣身が受け止められた。
素手だった。ロルビスの魔力を込めた渾身の一斬は、何の武装もしていない手によって止められた。
ロルビスはそこで初めて敵の姿を視認した。
雪のように真っ白な髪。褐色の肌。尖った耳。
肩を露出させたタンクトップ。黒色無地のズボン。
ロルビスの魔剣を受け止めている褐色肌の男の腕は、決して筋肉質には見えなかった。
一瞬遅れてユーミラとヘルヴィアも反応する。
ユーミラが背中の大剣を、ヘルヴィアが腰の長剣を、取る。
続いてロルビスも魔剣の剣身を変形させた。剣身から四本の剣身が枝のように飛び出る。
「君達も、遅い」
ヘルヴィアは認識できたが、対処はできなかった。
ユーミラは認識できなかったが、速度だけなら互角と判断した。
ロルビスはどちらもできない。
ダークエルフはユーミラとヘルヴィアを蹴り飛ばす。
ロルビスは魔剣を腕からはたき落とされる。カランと音を立てて落ちた魔剣は、ロルビスから魔力の供給が切られて元の形に戻った。
「初めまして、ロルビス・クロス」
「うぐっ!?」
ダークエルフに首を掴まれ、ロルビスは宙吊りになる。
圧迫された首で、なんとか言葉を発する。
「あな、たッ………攻略……し……………」
「あ、僕は『攻略者』じゃないよ。彼女は後から来るってさ。君以外の人を全員殺した後に」
自己紹介がまだだったね、とダークエルフは続けた。
「僕の名はベン・レファー、君と同じで『持たざる者』だった」
次の瞬間、ベン・レファーの身体から蒼黒い魔力が溢れてきた。
その魔力は、蒼く、黒く、虚しく、禍々しく、悲しみに満ちた魔力だった。
ベン・レファーはニヤリと笑って言った。
「君に会いに来たよ」
51




