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51話 殺意


フェンバリック王国にたどり着き早々襲撃を受けたが、大事にはならなかった。いや、もし仮に大事にしようとしても揉み消されたであろう。

ユウトは「人の悪意ってメンドクセー」と思わず愚痴を漏らした。

しかし、向こうの狙いはあくまでも試合に出場する生徒。ユウト自身が狙われるなんてことはなかった。

勇者(ユウト)を狙うということは戦争を起こす気満々ということだ。さすがにそんな肝っ玉の据わった貴族(バカ)はいないらしい。


なのでユウトは王都を見て回ることにした。

十日間馬車を護衛した疲労はハンパない。特にずっと御者台に居たロルビスは相当なものだろう。

護衛のユウト達は、教師と生徒共々休暇を与えられた。数日の休みを取り、対校試合はその後だ。

それまでは英気を養いなさい、とクレナにも言われた。



「なのに何でお前、普通に観光してんの?」

「それはユウトも同じでしょう」



栄えた王都。その表通り。

ユウトは何かしらの肉を焼いた串焼きを片手に王都を観光するロルビスとばったり出くわした。

「せっかく王都来たのに寝てるだけなのも勿体ないかなって」

「同じくです」

要は二人とも初めての国でなんやかんやテンションが上がってしまい、ジッとしてられなかった。

子供か。

「まあせっかくですし」

「観光すっか」

男二人。賑やかな表通りを歩くことにした。

「なんか、寂しいな……」

「花がありませんからねぇ……」

ユーミラは寝てるし、ヘルヴィアも寝てるし。

「セナがいればなぁ……」

「ここで妹の名前が出てくるあたりお前相当やべぇぞ。セナちゃん可愛いけど」

こいつはイケメンだけど性格で損するタイプの人間だ。いや人間じゃないか。エルフか。

ちなみにロルビスはユウトが愛しの妹(セルレーナ)を『セナちゃん』と呼ぶ事を許していない。

心優しく美しく奇麗で可憐で天使で女神なセルレーナが『兄さんの友人なら別にいいですよ』と特別に許したのだ。

ロルビスはなんなら今からでもやめさせたい。

と、そこに。


「ハァ〜イ、そこの少年達(ボーイズ)


赤紫色のドレスのような服を着た女性が現れた。

髪も同じ赤紫で肌は陶器のように白く、まるで絵画から飛び出してきたようだ。

服は全体的に露出は少ないがぴったりフィットした服が彼女の凹凸に富んだ身体をこれでもかと強調する。

男なら誰もがその膨らみに目を奪われるだろう。実際ユウトは目を奪われている。

ただ、ロルビスはその女の瞳を見た。他人を見下したような、気にくわない目だ。

「ほらユウト、逆ナンですよ」

「いやいやお前も呼んでただろ」

「生憎 俺は少年(ボーイ)というほどの年齢ではないので」

「いやボーイ“ズ”だから。複数形だから。お前も含まれてるから」

ロルビスは心の中で舌打ちした。この女はどうも好きになれない。

なぜエルフは人間のように老化しないのだろうか。今だけはエルフの永久の寿命(エターナル)を呪った。


「初めまして〜。私はフェンバリック王国第一高等学校の教師のアウロラ・エーオース。よろしくね〜」


アウロラと名乗った女はヒラヒラと手を振った。妖艶さがハンパない。

「それで、映えある『第一高等学校』の先生が一体なんの用ですか?」

「もぉ〜そんな警戒心剥き出しにしないで〜。今日はちょっとお話しに来ただけだから〜」

「今日は、ね……」

その部分を強調した物言いに乾いた笑みが溢れる。間延びした喋り方は余裕の現れか。

「私、アナタ達の事少し調べたのよ〜。ほら、情報は武器って言うじゃなぁ〜い? そして調べてみたら〜、なんでも魔法適性がまったく無いのに家族の威光で教師になった人がいるらしいのよ〜」

そこでアウロラはロルビスに眼を向ける。

値踏みする視線ではない。明らかな蔑みの視線だ。



「顔だけならいいんだけどね〜。エルフなのに魔法が使えないんじゃねぇ〜」



ああ、またそれか。


『エルフなのに』


『エルフのくせに』


皆、口を揃えて エルフ エルフ と。


そんなに魔法適性の無いエルフが珍しいか。


そんなに魔法が使えないエルフが面白いか。


そんなに無能を見下し、蔑む事が楽しいか。


どうしていつもこうなんだ。


どうして自分は力がないんだ。


どうして自分は生まれてきたんだ。


どうして世の中は不平等なんだ。


どうしていつも、人間は、人類は、



「ねえアナタいっそ私のモノにならない〜?」



どうしてだ。どうして。


どうして生物はここまで醜くなれる?



「顔はそこそこ好みだしさ〜。私のモノになれば魔法使いとしてはともかく、待遇は今より──」



ああ、いっそこの女を殺してみたらどうだろうか。


怒りに、欲望に、衝動に、身を任せて。


目の前にある全てのものを。


力が続く限り。力が及ぶ限り。その命 尽きるまで。



「……ハッハァ」

「──ッッ!? ア、アナタ……!」

今まで余裕顔だったアウロラが、初めて焦りを見せた。

それを直接向けられていないのにも関わらず、その場にいただけのユウトも思わず一歩下がるくらいに。


今のロルビスは、黒かった。


「ちょ、ちょ、アナタ正気〜? ここで私を倒しても意味はないわよ!? ましてや教師がそんな事をしたら──」

アウロラは黙った。否、強制的に黙らされた。

ロルビスから向けられた殺意と魔力が、溢れて、黒く、黒く、アウロラを覆い尽くしていく。

「おいちょっと待てロルビス!」

「………………」

「ッ! いい加減にしろッ!」

パシン、と乾いた音が鳴る。ユウトがロルビスの顔をを引っ叩いたのだ。

「…………すみません。どうかしてました」

ロルビスから発せられていた殺意(くろ)が収まっていく。

「………………………………」

一方、アウロラは怒り心頭だ。

それはロルビスに萎縮したからか。それとも魔法適性の無いロルビスが相当な魔力を持っていたことへか。

魔力(たから)の持ち腐れね」

「おや〜、どうしたんですか〜? 随分不満顔ですね〜? でもさっきの余裕顔よりそっちの方がお似合いですよ〜ん?」

「ブフッ!」

ロルビスがアウロラの口調を真似て言ってやれば、それはもう真っ赤っ赤。トマトみたいだ。

「いやロルビス。さすがに『よ〜ん』とまでは言ってないだろwww」

「え〜? そうでしたっけ〜ん?」

「ブッ!? ちょ、もー! 腹痛い腹痛い! 『け〜ん?』ておまwww ッブフォ!」

「………………………………」

怒りすぎて無言になったアウロラ。

彼女はゆっくりとロルビスに近づくと肩に手を置き、小さく囁いた。


「試合当日、楽しみにしてなさい。徹ッッッ底的に捻り潰してあげるから」


ギリギリとロルビスの肩に置かれた手に力が籠もる。

「ちょうどルール変更があったのよ。午後の『教師の部』でね」

ああ、またか。

「連続で負け続きのフェンバリック王国はハンデとして一人だけ一回分の試合で対戦相手を選べるっていうね。アナタを対戦相手に希望しようとした人達がこぞってこの指名権を手に入れようとしたわ〜」

ここでも、『悪意』が。

「なるほど、つまり、貴方が俺の対戦相手ってことですか」

「そのとーり〜」

それだけ言うとアウロラはロルビスから離れた。

去り際にユウトの顎をツイッと撫でる。

「それじゃあまたね〜。少年達(ボーイズ)

そう言ってアウロラは雑踏の中に消えていった。

「最後まで無駄に妖艶な奴だったな」

「そうですね」


アウロラ・エーオース。

こちらも情報収集をするべきだろう。あの女は、危険だ。

と、そこに再び闖入者が。


「ねぇ、お兄ちゃんたちってまほーつかい?」


小さな少女だった。

小さな左手に黄色いタンポポを握り、空いた右手で可愛らしくロルビスのコートをクイクイ引っ張っている。

「さっきの話、聞いてたんですか?」

「うん、まりょく とか しあい とか言ってたから」

「そうですか。その通りです、俺は魔法使いです。大したことない魔法使いです」

ロルビスは屈んで少女の目線に合わせる。

「たいしたことないの?」

「はい。まったく大したことありません。偉大でもありません。あ、でもこっちのお兄ちゃんはすっごい魔法使いなんですよ?」

隣のユウトを指差す。

何しろ勇者なんだから、と心の中で付け足した。

「いや、でもこのお兄ちゃんは魔法使いの先生ですっごいんだぞ?」

「へー! せんせーなんだ! ふたりともすっごいだね!」

少女はパッと笑顔になった。

アウロラの妖艶な、見下すような笑みではない。

純粋な笑みだ。

「ねね、お兄ちゃんせんせーなんでしょ! 『まほー』についておしえて!」

「構いませんよ。何を知りたいんですか?」

「『まほー』ってなに!?」

「うぅん、それは難しい質問ですね。そもそも魔法とは人類が『理解』するよりも早く『使用』できるようになったもので──」




「うん、やっぱお前、人にもの教えてる時の顔が一番良いよ」


その言葉は、如何にわかりやすく説明するか夢中になっているロルビスには届かない。

もし、この場にカメラかスマホでもあるなら一枚撮っておきたい。

そう思える光景だった。



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