50話 尋問
フェンバリック王国はとても賑やかな国だ。
多くの至高魔具を所持している。それらを解析して簡易化に成功したものを量産型魔具として世界に売り出したのもフェンバリック王国が最初だ。
最も栄えた王都では魔導列車が走り、馬を必要としない魔導車が道を住く。
他の国で流通している魔道具は、ほとんどがフェンバリック製だったりする。
最近では他国も量産型魔具の製造に力を注いでいるが、未だこの国には遠く及ばない。
しかし、圧倒的な『技術』に対し、『戦力』に於いては他国に劣る弱小国なのだ。
魔法適性、魔力量、魔力操作技術、それら全てが他国より劣っている。
むしろ劣っているからこそ至高魔具の解析に尽力し、ここまで発展したとも言えよう。
魔法使いというのは大なり小なり貴重な存在だ。
高い魔法適性があれば一発逆転の強力な魔法を見舞うことができるし、低くても後方で回復役として重宝される。
だからこそ、魔法使いの数が少ないフェンバリック王国は弱小国として侮られるのだ。
「──それには『龍脈』という大地に魔力が流れる場所が関係していると言われています」
ロルビスは御者台で手綱を握り、前方にある城壁を見据えた。
城壁の門をくぐればそこはもう王都。ガリュートル王国の敗北を望む悪意の根源。
だからロルビスは入国前にこの世界の情勢についてまったく知らないユウトに事前調査した情報を教えることにしたのだ。
「龍脈は世界中にあります。しかしフェンバリック王国の土地には龍脈が少ない。つまり普段から龍脈に触れていない訳です」
魔力は龍脈以外にも流れている。
空気も、物質も、多少の魔力を纏っている。しかしそれは龍脈の魔力と比べると微々たるものだ。
中でもガリュートル王国の龍脈は特に濃い。
普段から龍脈という『魔』に触れて慣れているからガリュートル王国は魔法使いが多く、強い。
逆にフェンバリック王国は『魔』に触れていないから魔法使いが少なく、弱い。
しかし、龍脈の有無が魔法使いの質と イコール にはならない。
ロルビスの故郷にも龍脈はあったが、ロルビスは魔法適性が低い弱者だ。
その逆もまた然り。フェンバリック王国にも、魔法適性が高い強者がいるのだろう。
「油断禁物ってワケだ」
「そのとおり」
ユウトは気を引き締めた。
いや、そもそも自分は試合に出ないのだから気を引き締める必要はないのでは?
そう思った。
ここでも何か待ち構えてるんじゃないかとロルビスは警戒したが特にそんなこともなく、すんなり通ることが出来た。
六台の馬車が、順番に門を通る。
仰々しく入ってきた馬車を見ると、住民は一斉に歓迎した。
歓声と紙吹雪を全身に浴びながらロルビス達は中央通りを進む。
(もしかしたら、いるかもしれない……)
この中に悪意を持って自分達を見ている目が、人間の闇が、あるかもしれない。
「ユウト」
「何?」
ロルビスは上にいるユウトに話しかける。
「念の為、結界を張ってください」
「結界? こんなところで張って大丈夫なの?」
「そんな大層な結界じゃなくて構いません。バレないように、物理的な干渉を遮断するように、軽く」
「『軽く』って、お前……」
なんとも抽象的な指示だ。
まあ、言ってる事がわからないでもない。
そして、それが出来なくもないのが勇者だ。
ユウトは誰にも気づかれないよう、そっと聖剣に触れる。
魔力を送り込み、脳内に『結界』を想像する。
そうすればユウトの想像した通りの魔法が現実に創造される。
六枚の結界が馬車の周囲に構築された。
薄く、脆く、小規模な結界だ。ここに魔法を一発でも打ち込まれればそれで はいお仕舞い。
だが、この中で結界を張ったことに気付いた者が何人いようか。
指示を出したロルビスは除いて、まずヘルヴィア。彼女はおそらく“見えて”いる。
クレナは馬車の中にいるが、もしかしたら気づくかもしれない。生徒も最上級生で気づけるかどうか。
ユーミラは──気づかないな、絶対。現在 彼女は睡魔と格闘中だ。
「ほら、ユーミラさん。起きてください」
「うぅ……寝てない、寝てないぞ」
それは居眠りしてた人が言う台詞だ。
「──近くに敵がいるかもしれません」
耳元で囁くとユーミラは一瞬で目を覚ました。
「どこだ?」
「すみません、嘘です」
「なにっ?」
「でも、嘘じゃなくなるかもしれません」
ロルビスはユウトに目を向けた。
「………………………………」
ユウトは目を閉じ、意識を集中させている。
もし、何かが結界に触れる事があれば反応が出るように細工した。何かが触れれば、すぐにわかる。
──カツンッ
「来た!」
「方向は?」
「2時の方向!」
その瞬間、ロルビスは手綱をユーミラに託すと馬車から飛び降りた。
しっかりと地面を踏み締め、両足に魔力を込める。
跳躍。ロルビスの行動に驚く住民を気にせず、ロルビスは屋根へ。
建造物を飛び越え、飛び移りながらユウトの示した方向に向かう。
ロルビスの目に、捨てられ寂れた六階建ての建造物が映る。
建物の五階。その窓際に『敵』がいた。
黒い外套を身に着け、手には吹き矢のようなものが握られている。この距離でも届くということは、何かしらの術式がかかった魔道具だろう。
敵はロルビスを見て驚愕する。驚愕のせいで動きが止まる。
その隙にロルビスは五階に飛び込んだ。
驚愕の表情のまま固まった敵の首を掴むと半ば叩きつけるようにして壁に押し付けた。
「……誰の差し金ですか?」
「し、知らない。俺はただ雇われただけで、雇い主の顔は知らないんだ!」
「……俺はこの腕に少し力を込めるだけで貴方の首を折れるんですよ?」
「本当に知らないんだ! 雇い主はいつも手紙で指示を出してきて、この手紙を渡す奴はいつも仮面をつけている! だから頼む! 見逃してくれ!」
「………………」
「なあ頼む! 家族がいるんだ! 俺がいなかったらあいつらは──」
「もういい」
ロルビスは敵の男を離すと、頭を強く殴った。
頭を殴られた男は意識を失い、力なく床に倒れた。
これでこの男の任務は失敗だ。
ロルビスは来た時と同じように建物を飛び越しながら戻り、馬車の上に着地した。
突如として消え、そして戻ってきたロルビスに住民へ少し戸惑っている。
だがロルビスは何事もなかったかのように、何気ない顔で御者台に乗った。
「どうだった?」
隣のユーミラが問うてきた。
「大した情報は得られませんでした」
「いやその何事もなかったかみたいな顔できるお前のメンタルをシンプルに尊敬するわ」
最後にユウトが言った。ロルビスは無視した。




