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49話 部族


「ふむ。これだけか?」

そう口にするのはユーミラ。

目の前には六台の馬車がある。見た目は乗合馬車。引く馬は一台につき二頭。

隣国のフェンバリック王国の王都へ、ガリュートル王国魔法学校の生徒を運ぶ巨大魔導馬車だ。

ガリュートル王国が保有する至高魔具(レガリア)で、収納のための圧縮術式によって見た目よりも中は広くなっているし、重量も軽い。

見た目は貴族が乗るようなきらびやかな装飾はないが、真っ赤な車体は竜が突進しても壊れないと言われるほどの頑丈性を誇っている。

他にも馬車を引く馬に対する疲労回復や脚力強化の効果もある優れもの。


学校の総人数は約九百人。一台に百五十人ずつ乗り込む。

馬は至高魔具(レガリア)の恩恵を受け、昼間はほぼ休みなく移動し、フェンバリック王国まで十日かけて行く。

「中を見てもいいか?」

「すみません。生徒と教員以外は立ち入り禁止です」

興味津々だったユーミラにそう言うとがっくりと肩を落とした。

「配置はどうします?」

ユーミラの横からヘルヴィアが訊いてきた。

「『眼』がいいヘルヴィアさんは上で」

ロルビスは荷台を指差す。一応、座るための椅子があるとは言え、かなり簡易的な木製のものだ。腰が疲れるだろう。

ロルビスも酷なことをしていると思っているが、仕方ない。

自分も同じような条件。

用心棒を兼ねている冒険者(じぶんたち)(くつろ)ぐわけにはいかないのだ。


「はい、それじゃあ並んで一人ずつ入ってくださーい」

護衛の配置について一通り説明したロルビスの次の仕事は生徒達の案内だ。

並んだ生徒一人一人の顔を確認し、点呼。いない者がいないか確かめる。

その間、チラチラとユーミラやユウトの方を見てしまうのは仕方ないと言えよう。

ユーミラとヘルヴィアは美人だし、ユウトは勇者だし。

「よし、全員いますね」

確認は済んだ。

生徒の後は教師。当然、その中にはクレナもいる。

「頼んだわよ」

「もちろん」

クレナはそれだけロルビスに言うと馬車に乗り込んだ。

ロルビスは御者台に乗り、手綱を握る。隣にはユーミラが座った。上にはヘルヴィアと共にユウトが。



「それじゃあ──出発!」



手綱を一振り、馬の尻を打つ。

同時に六台の馬車が一斉に動き出した。

目的地は隣国フェンバリック。さてはて、何が待っているのやら。



  □ □ □ □ □



……まあ、だからと言って直ぐに困難が訪れる訳でもない。


ガリュートル王国を出発して五日が経った。

その間の襲撃はほぼなかった。

比較的安全な街道を進んでいるうえ、見るからに物々しい雰囲気を出した六台の馬車を襲うような賊などいない。

せいぜい魔物が数匹出てきただけだ。

そして、出てきたとしてもこの場には熟練の魔法使いが揃っているので魔物の方が可哀想だと思えるくらい秒殺される。


その中でもユーミラとロルビスは一段と速い。

ロルビスは魔物が現れた途端、すかさず魔法陣を展開し、魔物を倒す。

巨体で見るからにに頑丈(タフ)そうな魔物(ヤツ)はユーミラが御者台から降りて身体強化を発動。魔物の元まで一瞬で移動し、一発殴って瞬殺してしまう。

ユーミラが裏拳一発で巨大な猪の魔物を()してしまった時など全員があんぐりと口を開けていたものだからロルビスは思わず吹いてしまった。


そんな訳でヘルヴィアとユウトはほぼすることがない。

ヘルヴィアがせいぜい接敵の報告をするくらいで、ユウトは何も出来ない。

そもそもロルビスは、地形を変えかねないユウトに戦わせるつもりは毛頭ない。



「暇ーーー!」



だからユウトが不満の声を上げるのも自明の理。

ゴロン、と荷台の床にユウトは寝転がった。そのままジタバタと子供のように手足を暴れさせる。

寝転がった場所は床──ヘルヴィアの足元だ。

スカートを履いてもいないのに何故か恥ずかしい気持ちになったヘルヴィアは少し足を閉じた。

「シャキッとしてください。生徒にその姿を見られたらどうするんですか」

「別に見られてもええよー」

ロルビスの小言を軽く受け流し、ゴロゴロと転がり続けるユウト。

「つーかぁ、この馬車乗り心地悪すぎでしょ。めっちゃ腰痛いんですケド」

「一応、この馬車至高魔具(レガリア)ですから、普通の馬車より乗り心地は良いはずですよ」

「え、マジで?」

現代っ子のユウトは車やバイクといった乗り物に慣れているため、揺れる馬車は身体に負担がかかった。

電車のように心地良い揺れなら眠くもなるが、これは身体が痛くなる揺れだ。

「くぁあああぁぁぁぁぁあ〜………」

ユウトは痛む身体を伸ばしながら大きく欠伸する。

今日はポカポカといい天気。馬車の乗り心地が良ければこのまま安らかな眠りにつけただろう。

ロルビスの隣に座るユーミラもウトウトと舟を漕いでいる。

そんな冒険者一行を少し不安そうに学校の教師陣が見つめる。

「こんな緩んでるけど大丈夫なのか?」と思いつつも、ユーミラとロルビスの神業とも言える早業を見ているため下手に注意出来ないのだ。

ロルビスは、危機が迫ったらちゃんとしますよー、と内心で謝りながら手綱を締めるのだった。




しばらく馬車を進めている内に、山と山に挟まれた道──鞍部が見えてきた。

左右の山の木々は生い茂り、道を薄暗い影で覆っている。

「うわぁ、何か出そう……」

「警戒態勢」

短く、必要なことだけをロルビスが言う。あっという間に熟練の冒険者は警戒態勢に入る。念の為ユウトも聖剣を抜いた。

馬車はゆっくりと進み、峠に差し掛かる。緊張が走った。


影に、侵入する。


山林の中は異様なほど静かだった。動物も魔物もいない。

警戒態勢を維持したまま馬車を進める。ロルビスは腰に刺した魔剣(アヴウェノシア)をいつでも抜けるように、左手で手綱を握りながら右手を柄に手を添えた。

しばらく、その緊張感が続いた。やがてこのまま何も出ないんじゃないかとユウトが思い始めた時──


「───ッッ!」


──それは飛来した。

ロルビスは魔剣での対処が間に合わないと反射的に悟る。

直ぐに思考を魔法陣に切り替えた。自分の頭の横に、魔法陣を描く。効果は運動量(ベクトル)操作。飛来した物体の運動エネルギーを(ゼロ)にする。

だが、迫る影は複数。ロルビス一人では対処出来ない。

「ヘルヴィアさん!」

ロルビスは荷台にいるヘルヴィアに向かって叫んだ。

声に直様反応してヘルヴィアは剣を抜くと身体に──特に目に重点的に魔力を込めた。

飛来する影を見事にヘルヴィアは捌き切った。

「これは……」

飛来したそれはなんの変哲もない矢だった。特別な素材が使われているわけでも、特殊な魔法効果がかかっているわけでもない。

その時、ヘルヴィアは視界の端で動く影を捉えた。

ほんの一瞬。しかし、ヘルヴィアの『眼』ならば正体を知るに十分な時間だった。


顔に奇妙な仮面を付け、動物の牙や毛皮などで装飾した首飾りに腰布。露出した強靭な上半身と足は鍛えられていることがわかる。

あれは人だ。ただ、山賊でもない。



「───放浪部族(トライブ)です!」



森中に響かせんばかりに叫んだ。

「敵の数は!?」

「わかりません! とにかく多いです!」

これだけ騒げばさすがに生徒が異変に気づく。にわかに車内が騒がしくなるのをユウトは感じ取った。

「なんで部族(トライブ)が私達を…… 襲ったところ大したメリットはないはず………!」

ヘルヴィアが飛んでくる矢を捌きながら思ったことを口にする。

「………雇われたか」

それ以外考えられない。やはり今年の試合には何かある。

が、それよりもこっちの対処が先だ。

「ロルビスさん! 馬は!?」

「問題ありません。馬は俺が守ります」

「でも、他の馬車がッ!」

「そっちも大丈夫です」

その瞬間、暴風が荒れ狂った。


「魔法使いの、先生がいますから」



「《クライ(風よ)ネイトカガ(壁を成し)ツァカハスタ(敵を阻め)》」

「《トヌラユマメラ(水の御加護が)アルルリア(有らんことを)》」

「《ヴリクセカゲ(土よ守れ) ウルサオホソツ(地に立ち)カゲイトカガ(守護者と成れ)》」



風が、水が、土が、飛来する矢を全て防いだ。

「私達が雇われた意味って……」

「人手不足です」

詠唱の時間さえあれば、魔法使いは十二分に実力を発揮できる。

間合いを取れば剣士にだって引けを取らない。

「反撃しよう。ロル殿、岩を作ってくれ」

横にいたユーミラが手を差し出した。

「一応訊きます。何をするつもりですか?」

「投げる」

「ダメです。土砂崩れを起こす気ですか」

今度はユウトが発言する。

「じゃ、オレが魔法で」

「ダメです。以下同文」

「じゃあどうすんだよ!?」

ロルビスも、今戦っている教師陣もわかっている。

このままではジリ貧だ。こちらは自然を破壊しないように注意いなければならないのに対し、向こうは弓矢で好き放題攻撃できる。

対校試合もあるため魔力体力時間ともに消耗を抑えたい。

なら、逃げの一手だ。

「馬を走らせてください! 全力で!」

誰も反対しなかった。全員素早く御者台に飛び乗り、手綱を打った。

六台の馬車が勢い走り出した。道を猛スピードで駆ける。

だが、


「おいおいおい、あいつら森の中を馬と並走してるぞ!?」

「まったく、部族(トライブ)疾走(ドライブ)は厄介ですねッ!」


ロルビスはさらに強く手綱を握る。

馬を全速力で走らせ、森の中を移動しているのにも関わらず、部族の者は並走する。それどころか走りながら矢を射ってくる始末。もはや超人の域だ。

「仕方ない。このまま関所まで行くしか──」

「その必要はない」

「姉さん!?」

いつの間にかクレナが馬車の外にいた。

「私がやる。そのまま馬を走らせて」

「いいの? 魔素使いがそんな軽々しく能力(ちから)使っちゃって」

「緊急事態よ、仕方ないわ」

そう言ってクレナは荷台に登った。

突然のクレナの登場にユウトとヘルヴィアは動揺する。

「ク、クレナさん!?」

「えっ、魔素使い!?」

クレナは二人を一旦無視して、己の魔力を高めた。

そして放った。

ユウトにはただ魔力を放っただけに見えた。だがヘルヴィアは観えた。

見えたからこそ、驚愕した。

クレナが魔力を放った先、そこが歪んだ。水面が沸き立つように。

まるでスープを混ぜたかのように、森が歪んだのだ。

その『歪み』に巻き込まれて部族(トライブ)は全滅した。

「すごい。これが『魔素使い』……」

全てが終わった頃には静寂が戻っていた。


「キナ臭きなってきたわね……」


しかし、クレナはそんな自分の力を誇示することなく、ただこの先の生徒達の身の安全を憂いていた。



乗合馬車の上にある座る所の名前がわからないので『荷台』と明記しています。

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