48話 平等
「さて、いよいよ一ヶ月後は対校試合です」
ロルビスは教室を見渡す。
これから行うのは説明だ。対校試合へ向けての。
各々、席に着いた生徒達が真剣な面持ちでロルビスの話を聞いていた。
「ここ三年間は我がガリュートル王国魔法学校が三連続で優勝という極めて優秀な成績を収めています。他校は惜しくも優勝を逃しており、今年こそは と息を巻いているそうです。今年は例年よりも厳しい戦いになるでしょう」
そこでロルビスは息継ぎ。空気を肺に送り込む。
「さらに、どうやら今年は 負け続けるのは国の威信にも関わる ということで、保身のことで頭が一杯の阿呆共が我々が優勝出来ないようにといろいろ手を回しているそうです。まったくもって腹立たしい」
再び、息継ぎ。
「──という訳で、今年は徹底的に潰しましょう」
(((((どういう訳で!?)))))
普段、自分を『弱者』と表現するロルビスにしては珍しく強気な発言である。
ロルビスはこの学校に来たばかり。『対校試合』などというものは一度も経験したことがない。
なので生徒よりもハラハラワクワクしているのである。
「威信とか体裁とか『大人の事情』は知ったこっちゃありません。真正面から戦って、徹底的に潰してやりましょう!」
「いや体裁は気にしましょうよ」
生徒の一人がツッコんだ。
「それに『大人の事情』って………… ロルビス先生って千歳超えてましたよね? 確か1649歳だとか」
また一人、ツッコんだ。
「………………………………細かい事はいいんです」
10と1000の差を『細かい』と思うかは人それぞれだとして。
ロルビスは当日に行われる種目の時間割表を取り出した。生徒達にしっかりと見えるように、数倍に拡大されたやつをを黒板に貼る。
「試合の種目は例年と同じく午前で魔法の威力・射程・速度、魔力操作の精密性や詠唱力などを実戦形式で競うそうです。そして午後は我々の『教師の部』を挟んだあとに、男女混合の集団で試合を行います」
言うなれば午前の種目は魔法学校の入学試験に近いものだ。これは生徒全員が各クラスで総合点を競う。
だが、午後は完全な実戦となる。死者が出た事もある。
各クラスの代表者達が戦い、トーナメント方式で最優秀クラスを決める。
「その事に関して、俺から一つ」
ロルビスは、ピッ、と指を立てた。
「このクラスの出場選手についてです」
少し空気が張り詰めた。試合に出場するということは己の実力を示せる場だが、同時にしくじればその醜態の大勢に晒すことになる。
出るべきか、出ないべきか。生徒はその判断を強制される。
「誰かが立候補するか、いなければ誰かを推薦します」
と、言っても誰も立候補しないだろう。なのでロルビスは推薦する。
「マリカさん」
指名したのは、マリカ=ミヤザキ。
彼女は勇者の子孫ということで普段から注目されている。他人の目もある程度は気にならないだろう。試合に出ても緊張せずに乗り切れる可能性が一番高い。
「どうですか? 出ますか?」
ロルビスは真っ直ぐ問うた。答えはすぐには来なかった。
マリカは逡巡していた。
自分にできるのか、という不安。
自分にならできる、という自信。
二つがマリカの中で折り混ざる。
これは、恐怖だ。
一年生という年齢。経験なき者。
それが今のマリカ=ミヤザキ。いつもは強がっていても、やはり所詮は子供なのだ。
勇者の家計で育んできた己の傲慢が、早く返答しろと、自信のない一年生の焦燥感を突いてくる。
「…………ッ」
恐怖心を、傲慢で持ってねじ伏せる。
「ええ、いいわ! やってやろうじゃない!」
答えた。
それを見ていたロルビスはマリカの内心を察し、意志の強さに感心した。
素晴らしい精神力だ。
「では、このクラスの出場者はマリカさんで決定します」
張り詰めていた空気が緩和する。
出ずに済んだ、という考えと、出た方が良かったかも、という思いが入り混じっているのだろう。
弛緩した空気の中、悪いがロルビスはまだ言わなければならないことがある。
「──それと、今年から新たなルールが追加されました」
ここでロルビスの口から放たれる新たな事実。
これは思惑だ。当校を優勝させたくない馬鹿で阿呆でクソッタレな愚者共の思惑。
「《火炎試合》 今年からはこの方式を取り入れるそうです。今から規則書を配ります」
そう言って渡された規則書に生徒達は目を通した。
1.
出場選手は各クラスから五人ずつ選出し、それ以上の人数は参加出来ない。
2.
出場選手には《火炎の魔杖》を四本と《探知の魔杖》を一本支給され、《火炎の魔杖》を用いた攻撃のみ許可する。
それ以外の詠唱や魔法陣による魔法を行使した場合、反則となりその選手は失格とする。(身体強化などの使用も不可)
※それぞれの魔杖の効果は次の頁に記す。
3.
魔杖の刻印術式を改ざん、消去等の改造をした場合 失格となる。
支給された魔杖以外の魔道具を試合場に持ち込む、または使用した場合、これも反則となり失格とする。
4.
魔杖に予め魔力が貯蔵されており、それを自分で新たに魔力を充填する、もしくは誰かに充填してもらった場合、失格とする。
5.
試合場から出た場合、場外となりその選手は脱落。以後 試合に参加出来ない。
6.
支給された魔杖を破壊された場合、その選手は脱落。以後 試合に参加出来ない。
7.
相手チームの出場選手全員の魔杖を破壊する。相手チームの出場選手を全員 場外に落とす。もしくは制限時間を過ぎた時点で試合場に残っていた出場選手が多いチームの勝利とする。
魔杖の効果・構造について。
魔杖には火球型、炎壁型、探知型とそれぞれの形がある。
火球型は魔杖に刻まれた術式に魔力を込めると《火炎球》を放つことが出来る。
炎壁型は魔杖に刻まれていた術式に魔力を込めると《火炎防壁》を放つことが出来る。
探知型は術式に魔力を込めると自分のチーム、相手のチームが持っている魔杖の位置を《探知》し、特定できる。
ただし、同じ探知型の魔杖の位置を特定することは出来ない。
全ての魔杖には魔力が貯蔵してあり、それを使い切ると術式を発動できなくなる。
新たに魔力を充填した場合、上記の記述通り失格になる。
それぞれの魔杖の効果は全て均等になっている。
全て読み終わった頃には生徒達は気付いていた。ロルビスも先日にこれを読んだ時には『やってくれたな……』と内心で思ったものだ。
まず、この魔杖。
効果が全て均等ということは魔法適性が高い者──魔法の威力が高い者の強みが失われる。
皆が同じ攻撃力という事だ。
そして、この魔杖に貯蔵されている魔力。
これもまた保持する魔力量が多い者も強みを失ってしまう。
皆が同じ魔力量という事だ。
さらに魔杖の術式を改造することは反則と来た。
これではもし仮に最初から不正があった場合、その不備を直すことが出来ない。
この種目では様々な魔法的な才能が意味を成さない。
役に立つとすれば──
「──戦略です」
ロルビスは言った。
「今からでも遅くはありません。とにかく考えましょう、相手に勝つ方法を。戦略を」
「……でも、先生、俺たちの学校が今まで勝ててたのは魔法適性や魔力量で他校を上回ってからで……………… でも、もし仮にこの記述通りに魔杖の効果が均等だとしても、この試合じゃ皆が平等なんでしょう?」
「そう、『平等』なんですよ」
こちらが圧倒的に不利な状況じゃない。それならまだ勝ち筋はある。
そう、ロルビスは言い切った。
ロルビスは、自分が常に不利だった。
魔法の才能が無い者。そんな自分からすれば周囲にいる者は皆が『有る者』だ。
何度も不平等を味わってきた。そんなロルビスに言わせてみれば『平等』な状況は、とてつもなく恵まれた状況なのだ。
「勝てます。このクラスなら」
だから、ロルビスは言い切るのだ。
めっちゃルビ使った




