47話 対校試合
「ちょりーっす」
午後、昼下り。
特にすることもなく、テキトーにぶらぶらと商店街を散策してきたユウトは結局冒険者ギルドに帰ってきた。
軽い挨拶をしながら扉を開ければ多少の視線は集まるのだが、この『ちょりーっす』とか意味わからない間の抜けた挨拶をするのは勇者だけなので他の冒険者も『おう』と軽く挨拶を返すだけですぐに視線を外す。
最初の方はめっさ怖い顔で品定めするように睨みつけていた野蛮人のような冒険者だったが、ユウトのコミュ力もあってほぼ打ち解けていた。
相手を手立てつつ、自分もナメられないように。
男性冒険者達は先輩風を吹かせて色々と教えてくれる。
でも『コレ、特別な?』とか言って娼館の割引券を譲ってくれないでほしい。そんなもの貰ってもユウトはそこに行く度胸はないのだ。
女性の冒険者には若い新人ということもあってチヤホヤしてくれる。
ただ『あの男が悪いのよ!』とか言いってヤケ酒しながら失恋話を語らないでほしい。こっちは娼館に行く度胸もない恋愛経験ゼロの童貞なのだ。
まあ、それはそれとして。
特に受けるような依頼も貼り出されていないので、午後もボーッとしよう、と考えた矢先、今さっきユウトがくぐった扉を開けてロルビスがやって来た。続いてクレナも入ってくる。
突然の『魔素使い』の登場にギルド内が騒然とした。
「おい、アレがあの……」
「魔素使い……すんげぇ美人じゃん」
「やべぇ、あの方にお仕置きされたい……」
必然的にとクレナに視線が集まる。
そして、魔素使いの横にいるロルビスにも自然と視線が集まった。
『よくわからない得体の知れないヤツ』として認識されていたロルビスだが、ここで魔素使いとのコネがある事が知れ渡った。
これから先は妙な輩に気をつけようと密かに心に決める。
「よぉ、ロルビス。と………………お姉様?」
「ああ、ユウト。ちょうど良かった」
話があるんです。そう言ったロルビスはユウトに一枚のチラシを見せた。
「……………対校試合?」
□ □ □ □ □
「えっと……………………」
「年に一回の対校試合が一ヶ月後にあるから、試合会場である隣国のフェンバリック王国までの護衛として私達を雇いたい。で、合っているか?」
「その通りです」
ユーミラが言い、ロルビスが肯定。
ちょうどユーミラがまだ冒険者ギルドにいたので一緒に話を聞く流れになっていた。
まあ、とクレナは付け足す。
「勇者をスペシャルゲストとして、みたいな側面もあるけど」
クレナは スッ と目を細めてユウトを見た。
「………………………………ッ」
一方で、ユウトは少し顔を赤らめた。自分でもよくわからない動悸に内心で困惑していた。
他人にも聞こえるのではないかと思うくらい脈打つ心臓。戸惑いを隠せない。
「それより、生徒で男子の部 女子の部があるのはわかるのだが……………この『教師の部』とは何なのだ?」
ユーミラが木机の上に置かれたチラシの当日の時間割表を見ながらそう言った。
チラシの下には試合日にやる対戦内容と時間割りが書かれており、ユーミラが言ったのは午後に行われる『教師の部』に関してだ。
午前に行う生徒同士による試合。男子の部と女子の部があり、性別に別れて行う。午後は男女混合に行う。
その午後に行う男女混合試合に『教師の部』があるのだ。
「例え“教える側”でも生徒から学ぶ事はあるし、未来の“教えられる側”を確保するためにも教師は大会でそれなりの成果を残す必要があるのよ」
と、クレナは簡単に説明してくれた。
つまり、この対校試合は生徒の成果発表の場であり、教師の優秀性をアピールする場でもあるのだ。
次第によっては来年の入学希望者が増える。
「姉さんは人気がバカ高いから、試合に出場するだけで百人の入学希望者を集められる──なんて言われてるしね」
「まったく…………… 誇張よ、そんなの」
クレナは拗ねたような顔になって言った。そんな顔も魅力的でユウトは見惚れる。
「? 私の顔に何かついてるかしら?」
「いえいえいえ! とてもお美ししゅうございます!!」
「そ、そう、ありがと?」
若干 挙動不審になりながら答えるユウト。クレナはそんなユウトを不思議に思いつつも特に指摘はしなかった。
クレナは視線と、話を戻す。
「機動要塞を利用するって話も出たけど、試合日までに利用出来るようになるかわからないし。考えておいてほしいわ」
そこで話は終わり。クレナは席を立った。
クレナがギルドを出ていってもユウトはその方向をボーッと見ていた。
「………………………………………………………………」
「ユウト?」
「………………………………………………………………」
「──ユウト!」
「どわぁっ!? なに!?」
ガッと肩を揺さぶられて我に返る。
「どうしたんですか、ユウト。ボーッとして」
「あ、いや、その……なんて言うか……………」
ソワソワ ソワソワ
「もしかして姉さんに惚れました?」
「ふぉあ!? な、なぁーにを言っちゃってるんだよってばよぅ!?」
「口調がおかしくなってますよ。それに、さっき姉さんに見惚れてたじゃないですか」
今までユウトは恋というものをしたことがなかった。生まれて初めて味わう感情。
19歳。遅すぎる初恋だった。
「姉さんに手を出したら言えよ。ぶん殴るから」
「シスコン!?」
敬語が消えていた。ぐっと握った拳が物々しい。
と、そこで現れるロルビスのもう一人の家族。
「兄さん!!!」
妹である。
ドカンッ! と扉を半ば蹴り破るようにして入ってきた。勢いそのままにロルビスに抱き着いた。
速度も運動量も緩めずに抱き着く事。それは突進と同義である。
「おグふぅっ!?」
咄嗟に構えたから良かったものの、ロルビスが反応してなかったら二人は転がってその先にいる冒険者達でボーリングをしてたところだ。
『最強』に続き、『最強』までもが現れたことでギルド内はもう騒然としている。
魔素使いが畏怖の対象だとするなら精霊使いは畏敬の対象。
その容姿も相まって、もはやアイドル的存在である。
その二人と接点がある『最弱』はさらに奇異の目で見られることだろう。
「兄さん、対校試合に行くそうですね! 私も行きます。試合見に行きます。そして王都でデートしましょう!!」
早口で捲し立てるセルレーナ。
「もちろんさ、セナ」
イケボで即答するロルビス。
二人は抱きしめあった。
「ロルビスてめぇぇぇぇぇええぇぇぇえぇぇぇぇ! クレナさん という美人な姉がいながら美少女の妹(名前わかんない)まで! このラブコメ主人公がッ!!」
美人なクレナ。その妹たるセルレーナはやや幼さの残る顔立ちのため、めっちゃかわいい美少女だ。どこかクレナの面影もある。
ユウトはチラ見を禁じえない。
──チャキ。
ロルビスは無言で魔剣の柄に手をかけた。
「すみませんごめんなさい申し訳ございませんでした。妹様に色目使って大変失礼しました」
土下座した。
「初めまして。セルレーナ・クロスです」
「このタイミングで自己紹介!?」
セルレーナは場の空気を読まないようだ。
その後、ユウトは何度も土下座して、遠回しに自分はクレナ一筋だから妹には手を出さないと宣言して殺気を放たれてまた土下座して。
「すぴー」
ロルビスの許しを得る頃には、すっかり蚊帳の外に置かれていたユーミラは居眠りしていた。
美人なお姉ちゃんが欲しい人生だった……




