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幕間 協力者


「クソっ」

ズカズカと腹立たしげに歩く男が一人、地団駄を踏む。

衝撃と音は轢かれた絨毯(じゅうたん)によって吸収される。

男は顔を上げ、空に浮かぶ満月を憎々しげに睨んだ。

吸血鬼特有の烈火の如き赤い瞳に、夜空の美しい満月が映る。


遥か昔──吸血鬼(ヴァンパイア)の男がこの世に生を受けるよりもずっと前の事。

誕生した魔王によって2つあった月の1つが消滅させられたらしい。

昔はあの月の横に、彼ら吸血鬼(ヴァンパイア)の瞳と同じような真っ赤な月が浮かんでいたそうだ。

人類はそれを不吉の象徴として恐れたとかなんとか。


しかし、これは自分が生まれるよりも前の話なので本当にあったことなのか定かではない。

彼はくだらない事を頭から振りはらった。

それよりも早くやるべきことがある。この“会議”に終止符を打つことだ。

魔王が亡き今、魔族は混乱している。

素早くまとめ上げ、再び人類に攻勢をかけるべきだというのに、

「……あの無能共がッ!」

魔王軍を再編し、人類に再び攻勢を仕掛ける事には皆が賛成した。

だが、それにあたり誰が魔王軍を率いるのか、すなわち誰が『魔王代理』になるのかで会議は一向に進行しなかった。


(どいつもこいつも。自己顕示欲の(かたまり)がッ)


彼は内心、他の幹部を小鬼(ゴブリン)のようだと嘲笑っている。


自分が一番だ。

自分が最強だ。

自分が最も有能だ。

自分が……

自分が………

自分が…………


そしてこれが盛大にブーメランになっていることに彼は気づいていない。


例外(オルガス)を除けば、まともな幹部は一人もいない。

皆が皆、魔王のために、そして、かの邪神のためにと息を巻いている。

魔族に同じ種族という認識はあっても、仲間という認識は薄い。『共食い』も日常茶飯事だ。

それでも魔族が人類に対して対等以上に戦えているのは人類も同じように争いを繰り返しているのと、高い能力値と所以だろう。


「フェルドリーテ様!」


そんなことを考えてる時、自分の名を部下に呼ばれ、振り返る。

かなり慌てた様子の男が吸血鬼の男(フェルドリーテ)に駆け寄ってきた。

名はミュトロデネル。同じ吸血鬼(ヴァンパイア)族で優秀だが まだまだ若く、そして未熟な部分も多い。だが魔族にしては珍しく忠義に厚い男だった。

「何があった?」

フェルドリーテは冷静に部下(ミュトロデネル)に話しかける。ここで上司(じぶん)が慌てれば、部下達に焦りが生まれる。

だからこそ、上に立つ者は常に冷静でなければならないのだ。

「我々の部隊から何人か、脱走者が出ました」

「………………続けてくれ」

「他の部隊からも同じように脱走者が出ています。皆、今の“上”に不満を漏らしていた者ばかりです───おそらく、『共存派』が原因かと」

「あの小娘か……」

会議といい。幹部といい。

こうも立て続けに気に障ることが起こり、彼の堪忍袋の緒が切れた。

今度は思いっきり絨毯を踏みしめた。

『バゴンッ』と床が砕ける音と共に、建物全体が揺れたかのように(きし)んだ。



  □ □ □ □ □



──ポロロロン ポロロロン。


それはピアノの音だった。

旋律も、リズムもない、ただ子供がいたずらに鍵盤を叩いてるだけのような、めちゃくちゃな演奏だ。


無人の空間。暗闇の空間。

その中央に、ピアノを演奏する小柄な少女がいた。

演奏はしばらく続き、やがて止まる。

ここには少女しかいない。本来なら拍手など鳴るはずもないのだが、パチパチ、と乾いた音が一人分鳴った。

「やぁ、僕の『協力者』」

「およ? ベンちゃん来てたの?」

少女は振り返る。ふわりとツインテールにした金髪が舞う。さながら人形のような美しい造形をした少女だった。

「その呼び方はやめてくれと言ったでしょう」

一方、応じたのは白髪のダークエルフ。

肩を露出したタンクトップ。黒いズボン。オシャレというものを度外視したような格好だ。

「それでぇ? 収穫は?」

少女はダークエルフの不平を無視した。

「何人かこっちに引き込めた。今の“上”に不満を持ってる人達だったから容易(たやす)かったよ。ちゃんと隠蔽もしてきた」

「その中に面白そうな人いた?」

「そうだねぇ、魔族のくせにやけには仲間への思いやりが強い人とか」

「あぁ、あの幹部の弟ね」

もういいや、とでも言うように少女は再びピアノの方を向き、演奏を始める。

だがピアノにも飽きたのかすぐ椅子から降りてしまう。

仕方ないので少女は写真を眺めることにした。


「──楽しいお祭りになりそうだねぇ☆」


少女の視線の先。そこには大量の写真が並べてあった。それら全てが不自然な角度から撮られており、盗撮したことは明らかだった。


平均よりやや高めの身長。長耳族(エルフ)でも人間(ヒューマン)でもない中途半端な耳。黒髪黒目。

ロルビス・クロスの写真が大量に飾られていた。


彼女の興味は、ここ最近はずっとロルビスに向けられていた。そしてそれは衰えることなく──いや、まさに今も興味の炎は彼女の中で燃え上がり、(くすぶ)っている。


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