43話 日記
「ここがその場所です」
「……お、おう」
ロルビスに案内され、ユウトはとある一室に入る。
そこは書斎だった。
中央に長机があり、周囲には本棚。だがあまりの広大さゆえ書斎というよりは図書館のようだった。
天井にまで届きそうな本棚が悠然と並び、半ば迷路と化している。
「で、ここにその『日記』があったの?」
「ええ、そこの机に」
そう言ってロルビスは部屋の中央にある長机を指差す。
試しに触れてみたが埃などはついておらず、清潔に保たれていた。
「あ、そうだロルビス。さっきの日記貸してくれ」
「ええ、どっちですか?」
「そっち」
ユウトは日本語で書かれた日記を指差した。
「ユウトが元いた世界の言語で書かれた日記ですか」
「うん」
先ほどロルビスから問われた質問。
ユウトは隠す必要はないと判断し、正直に答えた。
どうやって自分が異世界から来たのか。元の世界はどんなところで、どんな技術を持っていたのか。
他にも文化、娯楽といったものまで。根掘り葉掘り。
おかげで質問責めが終わった頃にはユウトはぐったりしていた。
ただ『女神』の存在については懐疑的だった。
というか、ユウトが女神の名前を忘れてしまったため上手く説明できなかった。
「この字、なんて書いてあるのかわかりますか?」
「そりゃ元いた世界の言語だからな、読めるに決まってる」
「確かに」
ペラリ、とユウトは日記のページをめくり、ロルビスにもわかるよう声に出して読み始めた。
『どうやらワシは死んだらしい。しかも、ボンキュボン女神が異世界に転生して魔王を倒せと言いよる。
もうすぐ齢50を迎えるジジイになんて事をさせるだ』
「え、勇者ショウヘイっておっさんなの?」
「そのようですね」
そして日記はそのままこの世界を調べた事がまとめられていた。
特にエルフやドワーフなどの亜人種に興味を引かれたらしく、かなり事細かに書かれていた。
次に『魔法』に興味を引かれたらしく、魔法に関してまとめた資料の在り処が記されていた。
「これは気になりますね。あとで探しに行きましょう」
「そうだな」
ぶっちゃけユウトはあまり魔法に興味はなかった。
ページをめくる。
「ん? 少し日付が飛んでるな」
「しばらく書けなかったんでしょうか……まあ、読めばわかりますよ」
「そうだな」
『魔王討伐、めんどい』
「勇者が義務放棄しようとしてる!?」
「まあ、勇者といえどやはり老人にはキツイのかもしれませんね……」
しかも日記を書くことすら憂鬱なのか一行だけでその日の日記は終わっていた。
忙しくて日記が書けなかったのではなく、めんどくさくて日記を書かなかったようだ。
「こんなんで大丈夫なのか………」
よく今まで世界が滅びなかったものだ。
そう思いつつユウトは次のページをめくった。
『散歩してたら魔物に襲われているエルフの少女がいたので助けてあげたらもの凄く懐かれてしまった。名は「ルーラ」というどこかに転移しそうな名前だった。
ついでに家まで送ってあげようと思ったのだが、どうも里が魔物に襲われて失くなってしまったらしい。仕方ないので家に泊めてあげた』
「いいのか!? サラッと女のコを家に泊めてあげようとしてるけどいいのか!? 犯罪の匂いがするぞ!?」
「まあまあ、ユウト。本人は四十代ですしその少女も害がないと判断したのでは?」
そもそも呑気に散歩している時点でおじさん臭いのだ。というか いつの間に家を手に入れたのだろう。
「いや、でも、その少女の年齢と見た目が書かれてないのが気になる! 怪しい!」
ユウトは次のページをめくった。
『ペペロンチーノが、食べたい』
「唐突だなっ!? てゆーか女の子は!? 女の子はどうなったの!?」
「ユウト、日記にツッコんでもしょうがないので次のページを見ましょう」
ロルビスに促されてユウトはまたページをめくった。
『ルーラが奴隷になった』
「「何があったッ!?」」
こればっかりはロルビスもツッコまざるをえない。
どうやったら助けた少女が奴隷になるのだ。
「犯罪だ! 勇者ショウヘイ=サキヒラは犯罪者だッ!!」
「お、落ち着いてください、ユウト。まだ続きがありますよ」
ロルビスの言う通り、一行だけ改行を入れて続きがあった。おそらく、どうしてこのルーラという少女が奴隷になったのか理由が書かれているはずだ。
『どうやらルーラはワシに助けられたことに恩義を感じているらしい。しかしどうやってその恩を返すべきか一晩中悩み、その結論としてこのジジイの奴隷になること──つまり、身体を売ることを選んだらしい。しかし、この歳で自分より小さい少女を抱く気にはならなかった。なので家の事を任せた。………しかし、なんか元の世界に残っている妻に申し訳ない』
「既婚者だった……」
「ありえなくないです。異世界から来たなら不倫ということにはならないでしょう」
「そこじゃな………まぁ、いいや」
ユウトは再びページをめくる。
『ついにこの時が来た。ワシは勇者。勇者の義務──それは魔王を討伐すること。ワシは魔王を討伐すべく、己の肉体を鍛え、魔法の技術を学び、そして今、魔王城へ
「あれ? ページ飛ばしたかな?」
「いえ、合ってます。めんどくさくてまたしばらく書かなかったようです」
ここまで来るともう呆れるのにも慣れてしまった。
ユウトとロルビスはその後の日記を読む気にもなれず、閉じた。
「それじゃ、これからどうする?」
「俺はさっき書いてあった魔法書を探してきます」
「わかった。じゃ、オレは──」
ユウトは日記を机の上に置くと、
「──卵かけご飯食べる!」
そう言った。
テスト期間がようやく終わりました。




