表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/77

36話 奇襲

(ドラゴン)


それを見た瞬間、ロルビスは本能的な恐怖を憶えた。

この世界における、食物連鎖の上位。

人間、亜人、エルフ、ドワーフ、そんなものは竜にとっては矮小な存在。羽蟲程度の認識しかない。

もし、ここが読んだ字数が身体能力に反映される世界でなければロルビスはあっさり()られていただろう。

そう、ここが『既読字数反映世界』でなければ。



ロルビスは、竜をワンパンで倒した。



その時の展開を述べよう。

まず、竜が機動要塞の全体に届かんばかりに叫んだ。

次に、竜は腕を振り下ろして爪で引き裂こうとした。

だが、ロルビスはそれをあっさり躱し、ぶん殴った。

それで終わり。竜は死んだ。

あまりにもスムーズだったのでしばらく静寂が流れた。

あの竜には、威厳があった。風格もあった。

しかし、ロルビスに負けた。

ロルビスは恐怖を憶えた。逃げ出したいと思った。

しかし、ロルビスは勝てた。

価値観がおかしくなりそうだ。

竜に遭遇する機会は貴重にで、記念として鱗を剥ぎ取っておくことにした。

暗闇の中でもわかるくらい、真っ赤な鱗。ロルビスはそっと腰の雑嚢(ざつのう)へ入れる。


階層主(ドラゴン)がいなくなったので、この場は自由に捜索できるようになった。

一見すると何もなさそうな、だだっ広いだけの部屋。しかし、竜が立っていた真後ろの壁に妙な窪みがあり、調べると隠し扉になっていた。

中には様々なモノが入っていた。いわゆる『お宝』だ。

どうやらあの竜は結構な物を溜め込んでいたらしい。

財宝。魔道具。芸術品。

「これは………」

はるか昔からある、古代の産物。

コルーが、その中でも魔法使いなだけあって特に魔道具の類いに興味を示していた。いくつかの魔道具を手に取り、それを眺めている。

全て持ち帰れば一生遊んで暮らせるかもしれないほどの量。だが今はそれよりも優先すべき事がある。

「よし、戻りましょう」

ロルビスの一声で、一行は来た道を引き返した。



  □ □ □ □ □



「うおぉぉぉ!」

ロルビスは飛びかかってきた巨大蝙蝠(コウモリ)の魔物の頭部に全力の蹴りを喰らわした。

それだけで蝙蝠の頭はふき飛び、空中でバラバラになってただの肉片に変貌する。それが、グチャグチャッ、と不快な音を立てながら地面に落ちた。

ロルビスの行動はそれだけで終わらない。

首無しとなった巨大蝙蝠の死体を掴むとブォンと振り回し、他の巨大蝙蝠に攻撃した。

遠心力を加えた一撃。威力がありすぎたのか蝙蝠の死体をぶつけられた蝙蝠は身体がバラバラに弾け、またぶつかった死体の方もグチャグチャに砕けた。

いつもならユーミラがやるような縦横無尽の戦いをくり広げながら、ロルビスは次々と蝙蝠を死へと至らしめていく。

その姿は、まさに鬼神。

心なしか、ロルビスは少し楽しそうに見える。

今もこうして見ているユウトは、ちょっとビビってる。

「え、あれホントにロルビス?」と疑うくらいビビってる。

魔物を次々と殺し、返り血を浴びて全身を真っ赤に染めるロルビスにビビっている。


現在、見事に階層主(ドラゴン)を討ち果たしたロルビスたち『討伐組』は、帰還を待っていた『待機組』と無事合流。出口を目指して走っていた。

その間、少なからず魔物が襲ってくる。

だがそれも当然のこと。これだけの大人数での大移動だ。魔物に察知されない訳がない。

布陣は一番先頭に一番戦闘力が高いロルビス。その後ろにレベルを低い者達を中央に固め、その周りを魔物に対処できる、ある程度レベルの高い者で囲む。

集団で密集して強引に突破する方針だ。

他では対処出来ない強力な魔物はロルビスが。それ以外は戦える者が。

だが行く先々でロルビスが魔物をほとんど片付けてしまうので後衛はほぼ何もすることがない。ユーミラなど戦いたくてウズウズしている。まあ、そもそも彼女はレベルが低いので戦えないのだが。


──────シュッ!


道が十字路に差し掛かった時、掠れたような音がして右の道から何かが飛び出してきた。

「───フッ」

右翼側にいたヘレンがそれを短剣で防ぐ。切り断たれた何かは宙を舞い、ベチャッと落ちた。

遅れて右の道から「シューッ!」という奇妙な音が聞こえてきた。

走っていた全員が足を止める。

「…………………………」

ヘレンは無言で短剣の刃を見る。ベットリと粘液のようなものがこびりついていた。

「………………………………………………っ」

生理的に受け付けないのか、ものすんごくイヤそうな顔をしていた。でも無言。

ヘレンが切り落としたのは『舌』だった。人間と同じくらいの大きさの、カメレオンの舌。

とりあえずヘレンは逃げ出したカメレオンの上に跳躍すると短剣を頭に突き立てた。

ブシャッ、と液体が飛び出る。

カメレオンが完全に沈黙したのを確認したヘレンは死体から降り、短剣を手ぬぐいで丁寧に拭いた。汚くなった手ぬぐいはそのまま捨てるらしい。

『ゴミはゴミ箱に!』とユウトは思ったが、ここでは誰もそんな事は気に留めない。

「なぁ、ロルビスー! ボスの部屋ってまだ?」

走るのを再開する一行。

ユウトは前方で魔物を狩りまくっているロルビスに呼びかける。

「ギィエエエェェエエェッッ!?」

「もうすぐですよ」

返答はすぐに、魔物の断末魔とともに帰って来た。

ユウトはちょっとビビる。いくら人に害を与える魔物とはいえ、こうもバッタバッタ殺されていく光景は痛ましい。

だが、すぐにその部屋と思わしきものが見えてきたので頭の隅に追いやる。

「で、出口だ!」

「やっとっ……出られるッ」

それを見た同行者の数名が嬉しそうな声を上げる。

一応、中に敵が潜んでいないかロルビスが確認。何も問題なかったので階層主(ボス)の部屋へ入った。

『出口』は財宝が隠してあった部屋の中にあった。

出口と言ってもそれはただの転移魔法陣だ。ただし、それはこの場にいる全員が乗れるほど巨大なもの。

全員が乗ったところで、転移魔法陣は起動。

ロルビス達は、『既読字数反映世界』から脱出した。




視界が白光に埋め尽くされていた。

目を細めて、それが終わるのを待つ。

やがて目が光に慣れてきたところでロルビスは目を開けた。


山。


そこは二階層の、荒れ果てた山の麓だった。

周囲に敵影はない。脱出した瞬間、魔物が襲ってくる仕組みなわけではないようだ。

「で、出られた! 出られたぞぉーーー!!」

「や、やった! これで家族に会いに行ける!」

やや遅れて、無事に脱出できたことを認識した者たちが歓喜する。

「………………ふぅ」

ロルビスは軽く息を吐く。

なんだか身体が無性にだるかった。気づかない内に疲労が溜まっていたのかもしれない。

あの世界から出た瞬間、どっと押し寄せてきた。

「少しいいか」

と、そこで話しかけられる。

誰かと思って振り向くと、そこにいたのはコルーだった。

コルーはロルビスの近くまで来るとそっと耳打ちする。

「向こうで話したい。いいか?」

ロルビスは無言で頷く。一体どうしたのだろう、と疑問に思いつつ、ロルビスはコルーの後を追った。


コルーが話し場所に選んだのは、ユウト達から少し離れた場所だった。

彼はロルビスの前に立つと、唐突に笑顔になり頭を下げた。

「ありがとう、ロルビス・クロス!」

いきなりのことだったのでロルビスは驚いた。

「あの、急にどうしたんですか? お礼なんて……」

「君がいなかったらボク達はあのままずっとあの場所に閉じ込められていたかもしれない。そして君は助けてくれた。お礼を言うなんて当然じゃないか!」

「………………」

ロルビスは、少々戸惑っていた。

なぜならコルーはてっきりロルビスのことを嫌っているのだと思っていたからだ。

なぜコルーは自分にあんな苛立たしげな視線を向けてくるのか、不思議だった。

「とにかく、ありがとう!」

そう言ってコルーは右手を差し出した。握手を求めているのだろう。

ロルビスは戸惑いつつも、その手を握ろうと同じ右手を伸ばす───が、ロルビスの伸ばした右手は空を掴んだ。

ロルビスが掴むはずだったコルーの右手。

その手は軌道を変え、ロルビスの腹へと接近していた。

同時に、手首から銀色の何かが飛び出した。

「────ッ!?」

腹部に痛みが走る。

コルーが伸ばした右手。その手首からさらに伸び出したのは、銀色のナイフだった。

完全に不意を突かれた形だ。

既読字数反映世界で『最強』となって、元の場所へ戻って来て、気が緩んでいた。


ナイフは、真っ直ぐ、ロルビスの腹を刺していた。


物語には裏切りが結構ありますよね。



「面白い!」や「続きが気になる!」など、応援したいと思って下さった方、ぜひ画面下の「☆☆☆☆☆」による評価やブックマークをお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ