35話 階層主
小一時間ほど経った頃だろうか。
どうやらそのリーダーとやら帰ってきたらしいので、ロルビスは顔を合わせに行った。
そこにはローブを羽織った五人組がいた。食料調達は少数精鋭で行っているらしい。
「どの人がリーダーですか?」
ロルビスはその五人組に近寄って話しかける。すると、あからさまに訝しげな顔をされた。
「──俺が説明しよう」
見兼ねたデイロがロルビスと五人組の間に割って入る。そして、ロルビスの素性やレベルについてなど、色々と説明した。
ロルビスのレベルを聞き、ここから出られることがわかると先程の人達と同様、歓喜に震えた。
ただ一人を除いては。
ここから出られると聞いても歓喜することなく、ロルビスに不信な目を向けてくる青年。
その一人こそ、この『既読字数反映世界』に閉じ込められている者達のリーダー。
名を、コルー・ハッツェン。
レベルは『85』とロルビスには及ばないが、この中ではかなり高い方だ。
あと数ヶ月もあればここから出られたかもしれないが、それまで生きてるかなんてわからない。早く出るに越したことはないだろう。
ロルビスはコルーの前に立つ。
「初めまして。ロルビス・クロスです」
そう言ってロルビスは目の前にいる眼鏡をかけた青年に手を差し出した。イケメンでもなく、不細工でもない、いかにも『普通』の顔の青年だった。
身につけたローブほ魔法使いのそれ。この世界では杖はただのガラクタなので持っていないようだ。
長らくここに居るせいか、くすんだ紫色の髪と衣服は薄汚れていた。顔にはいくつか面皰もある。
だがロルビスはそんなことは気にしない。いつもの笑顔で握手を求める。だが、
「………ふん」
「あれ?」
コルーはそっぽを向いてしまった。明確な拒絶の意思が伝わってくる。
「ユウト。もしかして俺って人をイラつかせるような顔をしてますか?」
「な、なんだよ、顔近づけてきて。いつもどおりのイケメン顔だよ。ホント。モテ自慢か? ぶん殴ってやろうか? ああん?」
「あ、いえ、なんかすいません……」
そもそもユウトは十分イケメンの部類に入るのだが、元の世界ではモテなかった。それには色々と理由があるのだが、それはまた別の話。
その後はこれからどうするのか、話し合った。
まず、討伐部隊を編成し、主のいる場所への道順や地理を把握。そして遭遇する魔物の特徴や食料の補給地点の確認。
話し合いの末、少数精鋭で主を討伐に赴く。その間、レベルの低い者はここで待機。
討伐が完了したら討伐部隊は帰還。レベルの低い者、つまりユーミラなどの魔物に対処出来ない者を中心にそれなりにレベルの高い者で周囲を固め、魔物に対処しつつ全速力で突破、そのまま脱出となった。
メンバーはこうだ。
ロルビス・クロス Lv.368
コルー・ハッツェン Lv.85
ヘレン Lv.40
デイロ・ストテデス Lv.32
デイロはロルビス達がここに来た時に案内してくれた男だ。家名がストテデスだというのはあとから知った。
デイロはこの空間でレベルを上げるよりも周辺地理の把握を優先し、この中では一番道に詳しい。
補給地点を見つけ、食糧難に陥らなかったのは彼のおかげと言う者もいた。
ヘレンは辺境にある小さな村の出身の二十代半ばの藍色の髪と頬にある傷跡が特徴的な女性だった。顔は美人だが無表情でまるで能面のようだ。装備は身軽な軽戦士のモノ。家名は無いらしい。
彼女は軽戦士でもあるが、同時に斥候だった。魔物を感知するのが誰よりも上手い。デイロの周辺探索も彼女が手伝ったそうだ。
この通り、パーティはレベルが高い者と周辺地理に詳しい者と索敵の上手い者によって構成された。
主討伐は余裕だ。何も問題はない。なにしろロルビスは『Lv.368』の化け物クラス。余裕で倒せるだろう。
だが問題はその後だ。低レベルを守りながら出口を目指すのはかなり困難になる。
しかし他方法は無い。やるしか、ないのだ。
□ □ □ □ □
「では、出発します」
ロルビスの合図と同時。コルー、ヘレン、デイロは駆け出した。ロルビスもすぐに走り出す。
──ゴッッッ!!
「うぉぉあ!?」
加速しすぎた。ロルビスは一瞬の間に三人を追い越す。百メートル以上の距離はあったであろう壁まで急接近し、激突した。
『ドコォォォォン!』という音がそこら中に響く。
しかし、かなり派手に突っ込んだ上、壁が少し凹んだがロルビスはさほど痛みを感じていなかった。これもこの世界での影響か。
「………チッ、何やってる!」
ロルビスに追いついたコルーが、軽い舌打ちとともに言った。
やはりこの世界での既読字数の反映は凄まじいものらしく、ロルビスほどではないがそれなりの速さで三人共追いついた。
「す、すみません。まだこの身体能力の慣れてなくて……」
ロルビスは身体を起こし、怪我がないか確認する。
特に問題はなさそうだ。どうやら肉体の強度も上がっているようだ。
「……チッ、なんでこんなヤツが………」
再び舌打ち。不機嫌顔でなにかボソボソと呟いていたがロルビスには聞こえなかった。
ヘレンは相変わらず無表情。デイロは特に何も言わない──否。警戒態勢に入っているので、何も言はない。
いつの間にか、魔物の集団に囲まれていた。
おそらく、先程ロルビスが壁に突っ込んだ音が原因か。
魔物たちは爛々とした目をロルビス達に向けてくる。
「やるしかないか………」
身体を慣らすにはちょうどいい。ロルビスは前に出た。
「俺がやります。コルーさんは二人の護衛を」
「…………………わかった」
不承不承ながらコルーは引き受ける。そして後から、もうリーダー気取りか、と小声で付け足した。ロルビスには届かない。
「………………」
ロルビスは冷静に、周囲を見回す。
数が多い。だが魔物の頭上に表示されているレベルはそれほど高くない。
なら、やれる。
魔剣は使わない。ただの指パッチンで人を吹き飛ばす程の風圧を起こせる今のロルビスの身体能力では折れかねない。
腰を落とす。やや不格好ながらも近接格闘術の構えをとる。そして、
一気に、踏み込んだ。
ドンッ! と壁に突っ込んだ時と同等以上の音が鳴らして、ロルビスは加速した。
加速の勢いを利用し、一番手前にいた闘牛のような魔物に拳を叩き込む。魔物は原型すら留めず、粉々にふき飛んだ。
さらにロルビスは、右にいた魔物にも拳を叩き込む。やはり原型すら留めない。
加速。加速。加速。
蹂躪。蹂躪。蹂躪。
十秒たらずで、魔物の群れは掃討された。
「こりゃすげぇ」
デイロが言った。彼がこんなふうに感嘆の声を漏らすことは数年ぶりになる。だがその言葉は自然と出てきた。
魔物たちを蹂躪し終えたロルビスは、もう周辺に何も潜んでいないことを確認した。
「………よし」
確認すると、ロルビスは魔物の死体を離れた別の場所へ運び始めた。こうすれば他の魔物は死体に有り付き、あとでここを通る時に戦闘を回避できるかとしれないからだ。
こうして魔物に囲まれた原因はロルビス自身にあるので、率先して動く。
作業に要した時間はせいぜい一分。莫大に強化された身体能力にかかれば余裕だった。
魔物の運搬を済ませたらロルビス達は進む。ひたすら進む。
階層主がいる、最奥の部屋まで。
途中、何度も魔物に出くわしたがロルビスによって排除された。仕留めた魔物は当然、離れた場所へと運搬。
後半、ロルビスは面倒になったので、仕留めたら遠くへぶん投げる、を繰り返した。
弱肉強食。教会などはたとえ魔物でも死体を粗末に扱ってはいけない、などの教えがあるらしいが、ロルビスはどの教会にも所属していないし、一瞬でも油断すれば自分、もしくは仲間が粗末に扱われる側になるかもしれないのだ。割り切って進む。
やがて、最奥の部屋へたどり着く。
扉はついていない。巨大な穴のような門をくぐれば、そこに階層主がいる。
そこにいたのは、雄々しい巨大の魔物。
深紅の鱗に包まれた身体。巨大な翼。凶悪な爪と牙。尾が動く度、その重さで「ズシン」と音が鳴る。
「竜。こうして見るのは初めてですね……」
ドラゴン!
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