34話 待機
『Lv.368』
ロルビスのレベルを聞いた者達は歓喜に震えた。
ある者は抱き合い、ある者は感極まって泣き、またある者はロルビスを神の如く崇めた。
彼らが喜んでいる理由は一つ。ここから出られるということだった。
脱出手段はこの階層の出口を守護する主を倒すこと。しかもその主の強さは『120』だという。
脱出は約束されたようなものだった。
だからといって土下座はやめてほしい。慕ってくれるのは嬉しいが。
だが、彼らの気持ちもわかる。なにしろ何ヶ月もここに閉じ込められていたのだ。
薄暗く、不気味で、魔力が使えない空間。
そんな場所に何日もいれば誰であろうと不安になる。
下手したら暴動などが起きて大惨事になっていたかもしれない。そんな彼らをまとめ上げたデイロはカリスマ性があるようだ。
しかし、その事をデイロ本人に言うと否定された。
「違うんですか?」
「ああ、ここのリーダーは俺じゃない。今は食料調達に行っている」
「へぇぇ」
やはりリーダーは皆をまとめる者らしく、ロルビスが現れるまではそいつが一番レベルが高かったようだ。
基本、ここにいる者はリーダーの指示に従うことを義務付けられている。
だがロルビス達はリーダー不在時に来てしまったため、そのリーダーが戻ってくるまでしばらく待ってほしいとのこと。
別に急ぐこともない、とロルビスは判断。ユーミラ、ヘルヴィア、ユウトも同じく。
なので本を読んで待つことにした。
ここには貴族の屋敷にあるような超長い机が並んべられており、イスも一つの机何十個と並んべられている。
ユウトはその一角に腰を下ろし、適当な所から何冊か持ってきた本を開く。
「………………全然わかんねぇ……」
そして、早々に飽きた。
本の内容は術式の論文を色々とまとめた物。
神様パワーのおかげで字の意味が直接頭に流れ込んでくるが、文が変に遠回しな書き方をされているせいですごく気持ち悪い。
こんなんじゃあ、読書欲も出やしない。
本など、内容が理解できなきゃ楽しくもなんともないのだ。
試しにライトノベルやマンガも探してみたが、置いてなかった。残念。
ユウトは本を元の場所に戻すと、とりあえず一番近くにいたユーミラの所に来てみる。
「くー」
寝てた。
机に突っ伏し、ぐっすりと、安らかに、無防備に、寝てた。
懐かしい。ユウトも高校時代はこうしてよく授業中の寝ていた。
そして真っ白なノートを見て慌てるが「ま、別にいっかー」と放置し、テスト直前になって急に焦りが出始め、友達に泣きついた。
「ホント、人間って学習しないよなー。ハハハハハッ」
そう、人間は何度も同じ過ちを繰り返し、成長してゆく。
頭ではわかっていても、身体は動かないのだ。
焦燥感というのは、後々からやってくるのだ。
それが人間だ。
テスト期間に入っても「まだまだ時間はあるしいっかー」と勉強を疎かにし、三日前になっても「一夜漬けでいっかー」とまたまた疎かにし、そして絶望する。
いやぁ、いい思い出だ。
こっちの世界に来てからは勉強は一切してない。そもそもする必要はない。異世界転生、最高ッ!
続いてユウトが向かったのはヘルヴィアの所。
後ろから話しかけようとした──が、なにやら熱心に本を読んでいた。
邪魔するのも悪いのでユウトはそのまま踵を返した。
ちなみに、チラッと見たらヘルヴィアの本には挿絵があった。挿絵には二人の男女が絡み合ってるのが見えた。ヘルヴィアの頬はピンク色に染まっていた。
うん、見なかったことにしよう。
次にユウトが来たのはロルビスの所。
ロルビスもなにやら熱心に本を読んでいた。顔はピンク色じゃなかった。
チラッ、とタイトルを見る。
『三匹の子ブタ』
「いや何でだよ」
「ん、ユウト? どうしました?」
近くに来ていたユウトにロルビスが気づく。パタンと本を閉じると机に置いた。机の上には他にもたくさん本が置いてある。
「ああ……いや、なんでもない。うん。ところでその本、どうしたの?」
「ああ、これですか。本棚を漁っていたら偶然見つけました。なかなか面白いですよ?」
熱心に『三匹の子ブタ』を読む千歳超えの男。
これが幼児向けの絵本として元いた世界で売られていることを知ってるユウトとしては違和感しかない。
「しかし、少し変ですね……」
そして、なんかロルビスも違和感を覚えてるらしい。顎に手を当てて考え込んでいる。
「民間伝承にさほど詳しい訳ではありませんが、末子成功譚の例にはこの本はなかった。結構受けが良さそうなのに一度も聞いたことがない。…………てことは勇者ショウヘイ=サキヒラの創作? 勇者は我々には無い様々な知識を持ってると聞くし、ありえなくもないか。でもこの子ブタ達と狼の絵は亜人の特徴と違う部分がある。ただのフィクションだから、とも言えるけど………そう決めつけるのは早計か。だとしたら他に何かしらのモチーフになった物があるはず………」
ブツブツ呟くロルビス。
ロルビスは『強さ』を求めた。その『強さ』には、当然『知識』も含まれる。
知識、情報は武器だ。相手を知る事。情報を得る事。
千年間森にこもったことでロルビスが得たものは、魔法陣だけではない。
だが、これは明らかにどうでもいい知識だった。とても戦闘の役には立たない。
何故、こんなものを知ってしまったのだろう。
ロルビスが自分の世界に入ってしまったので、ユウトは再び暇になる。
「………もう一回ラノベ探そ」
ロルビスを置いてユウトはどっか行ってしまった。そのことに気付かないままロルビスは考え込む。
「そうだ、ユウトは何か良い本──あれ?」
ユウトは消えていることに気付いた。
そして、ユウトが自分の話に飽きてどこかに行ってしまったことに若干落ち込んだ。
「はぁ……………」
話題を共有出来ないというのはなんとも辛いものだ。
そう思いながらロルビスは次の本を手に取った。
内容は戦争が終わり、平和になった時代に生きる五人の英雄とその子供達の物語。
王として国を収めたり、どこかでひっそりと隠居したり、子育てに悩んだり、実は英雄の一人に隠し子がいたり、と平和になった世界の日常を書いたものだった。
そんな平和な世界でも英雄は英雄としての苦難や災難に襲われるらしい。
物語を読み終える。
ロルビスは次の本に手を伸ばした。
今度は先程の平和な日常と打って変わって、異形の怪物が蔓延る世界で、家族をその怪物に殺された少年が復讐に燃える物語だった。
これは割と面白く、サクサクと読み進めることができた。
そのため、すぐに読み終わってしまう。
どの物語にも、終わりはある。
永劫とも言える年月を生きる自分の物語にも、いつか終わりが来るのだろう。
それがどんな終わりで、自分がどうなっているのかは、ロルビスにはわからない。
病気で死ぬのかもしれない。誰かに殺されるのかもしれない。
結局 力は手に入らず、皆には認めてもらえてないかもしれない。
いずれにせよ、終わりは来る。
だが、その時に何がどうなっているかは、誰にもわからない。
※末子成功譚
昔話の形式の一種で、年上の兄弟たちに舐められていた末っ子が成功を勝ち取り、兄弟たちは損をしてしまう──
──らしいです。
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