33話 既読字数反映世界
「………誰ですか?」
突然現れた男を見て、全員が警戒態勢に入る。
まずは先頭にいたロルビスがその男に問いかけた。
「俺の名はデイロ。こちらに敵意はない。武器を下ろしてくれ」
デイロと名乗った男はそう言って角灯を下に置いて両手を上げた。武器も何もない、というアピールだろう。
が、ロルビス達は警戒を解かない。見たところ武器は持っていないことは確かだ。
だが、それが信用に足る理由かと訊かれると否だった。
この暗闇の中、伏兵を忍ばせるのは簡単だ。
「何か貴方を信用できる証拠はありますか?」
「無い。それでも信用してもらうしかない」
それに、とデイロは続けた。
「俺たちはここで魔力を使えない。つまり俺たちはただの『常人』だ。小鬼にも、数で押されれば負けるだろう。この状況で敵対するメリットがあるか?」
説得力のある言葉だった。
デイロの言う通り、魔力が使えなければ魔法も、身体強化も出来ない。この状況で敵対するのは愚行だろう。
「………………」
確かに、とユウトも思う。ここは協力すべきだ。
「魔力が使えない、ですか……」
しかし、ロルビスはすぐに返答しない。何かを考えるように、顎に手を当てる。
ほんの数秒ほど、そうしていただろうか。
ロルビスは顔を上げるとデイロに問いかけた。
「魔力が使えない、そう言いましたよね?」
「ああ」
「でも俺はまるで身体強化した時──いえ、それ以上の力を引き出すことができました。これはどういうことですか?」
「それはここの『仕組み』が関係して………いや、まて、今なんと言った?」
ロルビスの言葉に反応して、デイロが食いついた。
「………………………………お前は、エルフか?」
そこでデイロはロルビスの中途半端に尖った耳に気づく。
「なるほど、エルフなら納得だ」
「いや、一人で納得してないで説明してくださいよ」
ロルビスが言うとデイロは「歩きながら話そう」と言って足元に置いた角灯を取って背を向けた。
□ □ □ □ □
ロルビス達が案内されたのは巨大な図書館のような場所だった。
壁に備え付けられた本棚に所狭しと並べられた大量の本が押し合っている。ちらりとロルビスは本棚を見てみたが、魔法学や生物学、剣術、童話など、ジャンルは様々のようだ。
薄暗さは変わらないが、最低限の明かりはあるようで所々で松明や蝋燭の光が揺れていた。
「新しくここに入ってきた奴らだ」
先頭のデイロがそう切り出す。
静かな声。だがその声は暗闇に驚くほど響いた。
声に反応して、一心不乱に読書に没頭していた者達が顔を上げる。だがすぐに顔を落とした。
まるで、眼中にない、とでも言うように。
彼らは貪るように本を読んでいた。普段、本とはあまり縁がなさそうな筋肉隆々の男も、まだ駆け出しと思われる若い冒険者の男も、冒険者に同行していたのか学者のような格好をした妙齢の女も。
これを見て『読書に夢中になっている』と思う者はいないだろう。彼らはむしろ『本に取り憑かれている』という表現の方が合う。
「まずはここについて話そうか」
デイロがそう言い、説明を始めた。
『既読字数反映世界』
デイロはこの場所をそう表現した。
ここではこれまでの人生で読んだ字数が、本人の強さに反映されるという。
つまり、読んだ字数が多ければ多いほど強く。読む字数が多ければ多いほど強くなれる。
それだけなら聞こえは良い。が、実際はそうもいかない。
ここにいる魔物は異常なほど強く、複数人で挑まねばならない。
そして、ここでは魔力が扱えないので身体強化も魔法も使えない。
規格外も、勇者も、この空間内ではただの常人になってしまう。
ここがどれだけ過酷な環境なのか、デイロがここにいる期間を聞けばわかった。
「三ヶ月。長い者では一年以上ここにいる」
それを聞いた時、ユウトは言葉を失った。
いや、何を言えばいいのかわからなかった。
この薄暗い所で過ごす事が、どれほどの苦痛だろうか。ユウトには想像もつかない。
「それで、脱出手段は見つけてあるんですか?」
「当然だ」
ロルビスに質問に「どれくらいここにいると思っている」と言うように答える。
「最奥の部屋。そこに出口がある」
どうやら出口は見つけてあるようだ。だが、それでも出られないという事は。
(出口に階層主がいるパターンかなぁ………)
ユウトは元いた世界でやったRPGゲームを思い出した。
大抵、ダンジョンにはそれぞれの階層があって、次の階層に進むには階層主を倒さなければ進めない、的な。
まぁ、そのあたりはテンプレだ。
「───だが出ることは出来ない。そこにこの階層の主がいる」
(はいビンゴー)
ユウトの予想は当たった。
しかし、それだと少々困ったことになる。
デイロは先程、三ヶ月はここにいると言っていた。中には一年以上もここで暮らしている者も。
この世界で強くなる方法は『文字を読む』こと。実に簡単だ。
だが、つまりそれは一年以上も本を読み進めても勝てない相手ということになる。
「本当にここから出られるのかな?」
ボソリ、と周りに聞こえないように呟く。
ユウトは急に不安になってきた。
「そうだ。お前、ロルビスとか言ったな。お前のレベルを見せてくれ」
「レベル?」
と、その時、デイロが訊ねた。
『レベル』。更にここでゲームっぽい要素が出てくる。
「レベルってなんですか?」
「読んだ字数がその者の強さ。レベルはその強さを表す数字だ。こんなふうに───レベル・表示」
デイロがそう唱えると、頭上に数字が現れた。
『Lv.32』
これが平均と比べて高いのか低いのかはわからないが、階層主はこれよりもはるかに強いと思っていいだろう。
「へぇぇ、レベル・表示」
ヘルヴィアも真似して呪文を唱える。頭上には『Lv.21』と表示された。
「あれ? 多少、書物は読んでいるつもりだったんですが…………」
「どれくらい文字を読んだのかは当然だが、その時の集中力なども反映されるらしい」
デイロの説明に、なるほど、と納得しつつユウトもレベルを展開。
頭上に『Lv.19』と表示される。ちょうどユウトの年齢と同じ数だった。
「レベル・表示ッ」
ユーミラも呪文を唱える。が、普段あまり本を読まなそうなユーミラは予想通り明らかに低く、『Lv.4』だった。
「…………………………はぁ」
途端、がっくりと肩を落とすユーミラ。
「まぁまぁ、そんな落ち込まなくても。ロルビスはどうだっ、た……………」
ユーミラに慰めの言葉をかけつつ、ロルビスの方を向き──再びユウトは言葉を失う。
ユーミラとヘルヴィア、デイロもユウトの様子が変なことに気づき、視線の先を追う。
そしてユウト同様、言葉を失った。
原因はロルビスの頭上に展開されたレベル。
『Lv.368』
「……………………………」
「……………………………」
「…………………デイロさん」
「なんだ」
「階層の主にもレベルがありますか?」
「ああ、階層主のレベルは120だった」
思ったよりも早く出れそうだ。
ユウトの不安はわずか数分で解消された。
次回、ロルビス無双?
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