31話 両断
「これが転送装置ですか?」
ロルビス達の目の前には円形の石があった。複雑な模様が刻まれ、下半分は地中に埋まっている。
ヘルヴィアが言った特徴とそっくりそのままだ。
「次の階層に行けるって話だけど、何があんの?」
ユウトは疑問に思った事を口にする。
次の階層も同じように魔物が蔓延っているのか。環境は海か、森か、山なのか。
「前回は『山』でしたね。甲殻装虫がたくさん出てきました……………………うぇぇ」
何か嫌な物を思い出したのかヘルヴィアが眉を顰めた。
「な、なんかあったんすか?」
「ヘルヴィアが駆け出しの頃にだな──」
「ちょっ、ユーミラアアァァァ!」
サラッと仲間の過去を暴露しようとするユーミラにヘルヴィアが食って掛かる。
だがユーミラは止まらない。
「──仕留めた甲殻装虫の体液を頭から被って以来トラウマなんだ」
「へぇ〜」
普段は冷静で大人しい性格のヘルヴィアだが虫嫌いらしい。ギャップ萌え──でもないか。
「あー、もう! 速く行きましょう!」
羞恥で顔を赤く染めたヘルヴィアがスタスタと転送装置に向かって歩いていく。
少し遅れてロルビス達も転送装置に乗った。
視界が光に包まれる。
転送装置がまばゆい白光を放ち、起動する。
そうしてロルビス達は次の階層へ進んでいった。
□ □ □ □ □
「こん、のぉ!」
「うぉぉぉおおおおぉおおお! 《カマサハ》ァ!」
全力で魔法の行使を禁じられたはずのユウトが、彼が今できる限りの全力で魔法を放った。
放たれる業火。それが津波の如く迫り、大地を、木々を、岩石を、そして人程の大きさを持つ鈍色の虫を飲み込んでゆく。
だがそれを咎める者はいない。
なぜなら、全員が敵の対処で手一杯だからだ。
そこは『山』だった。巨大な山の、中腹。
ゴツゴツとした岩が転がり、細々とした木々が申し訳程度に生えている。
だが、そんな荒れ果てた山にも溢れ返るほどいる──甲殻装虫の群れ。
ロルビス達がこの階層に転移した時は数匹しかいなかった。
しかし、ユーミラがその数匹を仕留めた瞬間、大量の甲殻装虫が周囲の巣穴から溢れ出てきた。
当然、そいつらはロルビス達に殺到した。
「はふぅ……」
当然、ヘルヴィアは卒倒した。
現在はロルビスの肩に担がれている。
「くっそ………! どんだけいんだよこいつら…!」
珍しくロルビスが素で悪態をついた。
制限魔法陣を外してこいつらを一掃してやりたい気持ちに駆られるが、もし使ったとしても殲滅は出来ない上に深刻なダメージが返ってくるので『我慢、我慢……』と自分に言い聞かせる。
ロルビスの魔法は威力が低く、ユウトの魔法は威力が高すぎる。さらにロルビスのようにポンポンと連発出来ない。
なので必然的にユーミラが前に出て倒すことになる。
「ハァァッ!」
踵落とし!
頑丈な甲殻を、砕く。
頭を潰された甲殻装虫は、体液を垂れ流しながら地に伏した。
「次!」
獰猛な獣のようにユーミラが次の虫に肉薄する。
ユーミラは装甲に覆われていない脚の関節部に大剣を叩きつけた。
メキャッ、と音がして甲殻装虫の脚が胴体から分離する。
大剣によって切断された──のではなく、乱雑な振り方のせいで砕き折られたである。
「ロル殿! 何か手はないか!? こいつらを一掃できるような!」
「ないです!」
即答。
火力の無いロルビスは既に殺すことは諦めて、関節部を破壊する無力化に徹している。
なのでユーミラの期待は自然と、もう一人の火力馬鹿へ行く。
「ユウト殿! 何か手はないか!?」
「な──」
ない、とこちらも即答しようとする。
「あるでしょう!? …………魔法創成者なんだから!!」
「こんな時に二つ名を考えないでくれる!? ちょっとカッコいいって思っちゃうじゃん!」
ロルビスによって返答を阻まれた。
(何か手、手段。この状況の打開策ゥ!)
半ば現実逃避しながら、何かないかと考える。
「ああああー! いいよ、やってやるよドラァ!」
巨大な岩を甲殻装虫の上に落としながらユウトは宣言した。
同時に、聖剣に意識を込める。
想像。創造。創成。
時間にして、約十秒。
その間はユーミラとロルビスが死守する。
「………………………………………できた」
魔法の完成。そして、ユウトは叫ぶ。
「ロルビス、ユーミラさん! 下がって!」
すぐさまロルビスとユーミラは下がる。出会って間もないのに、全員が互いを信頼していた。
ユウトは聖剣を腰だめに構える。
溢れ出る魔力の奔流。その濃密すぎる魔力は、感じ取った甲殻装虫ですら一瞬動きを止めるほど。心なしか、植物すら息を潜めるように止まった気がした。
完全にユウトの支配空間。その中でユウトは居合の要領で聖剣を引き抜いた。
その瞬間、発動する魔法。
「……………」
「……………」
誰も言葉を発しない。何が起きたのか、理解出来ないからだ。
ずるり、と甲殻装虫の身体がずれる。
しかしそれは一匹だけじゃない。その後ろにいる個体も、その後ろも。ほとんどの甲殻装虫が一刀両断にされていた。
「ユ、ユウト。一体何を───」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………!
「──おわっ!? なんだ!?」
巨大な何かが崩れる音がして、大地が揺れた。
運良くユウトの攻撃を躱して生き残った甲殻装虫が一目散に逃げていく。
「あ〜、やべ」
額に手を当ててつぶやくユウト。ロルビスは食って掛かる。
「ユウト、何をしたんですか!?」
「あー、そのー………………山を斬っちゃった」
「…………は?」
訳がわからずロルビスはポカンとする。ユーミラもポカンとしていた。
「いや、そのね、虫と一緒に山も斬っちゃったんだよ」
「えっと、つまり………」
ロルビス達から見て、ユウトは上に向かって魔法を放っていた。そして、山を斬ってしまった。
「………………」
ロルビスは恐る恐る上を見る。
迫る、土砂の波。
山崩れだった。
「おおおおおおおおおおおおおおぉぉぉ!?」
「ぬぅぁぁあああああああああああああ!?」
ロルビス、ユウト、ユーミラは身体強化を発動。全速力で駆け出した。
後ろからどんどん土砂が近づいてくる。
「ヘルヴィアさん! そろそろ起きてもいいんじゃないですかねっ!? できれば自分で走ってほしいです!!」
「………………」
ヘルヴィアは沈黙したまま動かない。まだ気絶しているようだ。
「ユーミラさん! なんとかなりませんか!?」
「───よし、わかった」
「え?」
ユーミラは大剣を背中に収めると、グイッ、とロルビスとユウトを引き寄せた。
「ロル殿、ヘルヴィアを落とすなよ」
そう言ってユーミラはさらに腕に力を込める。綺麗な顔が至近距離まで近づいた。
(あ、いい匂い……)
ユウトが一瞬バカなことを考えた時、突然身体にものすごい圧力を受けた。
周囲の景色が消える。そして───
──バコォォォォン!
「ぉぼろ!?」
先程とは比較にならない衝撃を受けた。ユーミラ達を中心に、ブワッ、と砂埃が舞う。
「な、なにが起きたんだ……?」
ユーミラの腕から解放されたユウトは地面にへたりと座り込む。見れば、先程の山崩れがついに麓にたどり着いたところだった。
「………あれ?」
はて、その山崩れはついさっきまでまさにユウト達が飲み込まれそうになったやつだが。なのに、何故ここにいるのか。
「………まさか、飛び移ったの?」
考えられるのはそれだけだった。
ユーミラは魔法が得意ではないので、風魔法を応用して空を飛ぶことなど出来ない。
だからといって山の中腹から別の山の中腹に飛び移るなど、規格外すぎる。さすがはユーミラ。
「ユーミラさんが規格外なのは重々承知しています。けどユウトのはなんですか。どうやったら山を切れるんですか」
ロルビスが言った。
「あ、そういえばそうだった」
ユーミラは『山移り』をやったが、ユウトは『山崩し』をしたのだ。問い詰められて当然か。
ユウトが想像したのは『なんでも斬れる剣』だった。
まるで小学生のようは発想だが、現にこうして強力な一撃を見舞うことができた。
あの時、聖剣は『距離』と『空間』、この二つの概念を切断していた。
距離の概念を切ることによって甲殻装虫の群れのほとんどに攻撃を当て、空間を断つことによって外殻の防御力を無効にした。
その結果、山の一部を斬り裂いてしまった。
もしもう一度ど同じことをやれと言われても、がむしゃらにやったことなのでユウトは出来ないだろう。
「………うぅ…………んん?」
そこでようやくヘルヴィアが目覚めた。
辺りを見回して、自分がロルビスの肩に担がれた状態だということに気づく。
「はわっ!? すいません!」
慌ててロルビスの肩から降りた。動揺しまくっているのか上手く着地ができずに、ドシャッ、と尻から地面に落ちる。
「だ、大丈夫ですか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
シュバッ! と勢いよく立ち上がるヘルヴィア。とりあえず元気そうなので良しとする。
「よし、じゃあユウトは探索を使って周辺確認。ロル殿、ヘルヴィア、私は周囲を警戒しよう」
ユーミラが素早く指示を出す。
三人はそれぞれ別々の方向を向いて警戒。ユウトは聖剣に意識と魔力を込める。
「…………………」
「ヘルヴィア?」
「…………………」
「おい、ヘルヴィア?」
「ハッ!? なんでしゅか!?」
ヘルヴィアの様子が変なことに気づいたユーミラが声をかける。
すると、ヘルヴィアはめちゃくちゃ驚いた。飛び上がるくらいの勢いで。
「どうした? 様子が変だぞ?」
「いえ、なんでもないです…… はい……」
「………そうか」
訝しみながらもユーミラは周囲の警戒に戻る。
その後ろではまたヘルヴィアが『ぽけ〜っ』としながらまた考え事を始めた。
(…………言えない。できれば『お姫様抱っこ』がされたかった、なんて………………… 言えない!)
まだ小さい、子供の頃の読んだ絵本。そこに描かれていたお姫様と、白馬に乗った王子様。
意図せずそれを思い出す。
男の子が勇者や英雄に憧れるように、女の子だって『お姫様』に憧れる事もある。
「…………………っ」
人知れず、ヘルヴィアは頬を赤らめた。
「───お? なんだこれ?」
なにやらユウトが見つけたようだ。そこでハッと我に返ったヘルヴィアは妄想を強引に遮断する。
「なんだろ、これ? 転送装置と似てるような……」
「違うんですか?」
「うん。なんかこう……形というか、性質が違うような………」
言葉ではうまく説明出来ない。ユウトはそう言って、それを直接見に行く事を提案する。
反対意見は無い。
四人はその場所に足を向けた。
勇者はすごい力を持っています。ですがユウトはまだそれを完全に引き出せません。
今後は『最強』の成長も書けたらいいな。
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