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30話 講義

ユウトは魔法を禁じられた。

正確には『攻撃系の魔法』で、かつ『無詠唱』で使うことを禁じられた。

それでも、チート勇者のユウトにはたった一言の呪文でも戦うのに十分な威力の魔法を打つことができる。

だが、肉体の一部のように自由自在に魔力を操ることはできない。つまり魔法を放つには少し時間がかかる。

発動速度においては、ロルビスの方が圧倒的に速い。身体強化は、ユーミラの方が圧倒的に強い。

勇者でなければ倒せないような、強敵が現れなければユウトは役立たずだった。


「───ハッ!」


身体強化を使い、(ましら)の如く駆けるユーミラが、魔物をまとめて薙ぎ払う。

ユーミラの蹴りを正面から顔面に受けた巨大な猿の魔物が「グギャアッ!?」と奇声を上げながら吹き飛んだ。


虚空で魔法陣が輝く。


魔力の発光。その光の形が歪み、複雑な文字を綴り、怪奇な線を描く。

形を成したそれは、超高圧に圧縮された水を打ち出す。

片翼を切断され、飛行能力を失った紅色の羽毛の鳥が「グェエエェェエェ!?」と口から炎を吐きながら地に落ちた。

地面と接触したところで伸びてきたアヴウェノシアの刀身が紅色の鳥の喉を貫き、トドメを刺す。

一連の行動が行われる中、ユウトは何もしてなかった。できなかった。

何もしなかったという点では、ロルビスのように魔法の遠距離の攻撃手段もなく、ユーミラのように爆発的な瞬発力と攻撃力を持たないヘルヴィアも同じだが、先陣の二人が打ち漏らした魔物を何匹か仕留めてるので完全に何もしてないわけではない。

本当の意味で、何もしてないのはユウトのみ。

肩身が狭いとはこのことか。

「よし、片付いたな」

最後の一匹を殴り飛ばしたユーミラが、ふぅ、と額の汗を拭う仕草をした。汗などまったくかいていないのに。

と、その時。

「前回来た時はこのあたりだったんですけどねー……」

ボソリとヘルヴィアが呟いた。

ロルビスはヘルヴィアが首を回して周囲を見回してることに気づいた。

「ヘルヴィアさん、何を探してるんですか?」

「あ、えと、次の階層に進む転送装置です」

「転送装置?」

ヘルヴィアによると、前回来た時はこのあたりに次の階層へ転移陣の魔道具があったらしい。だが転送装置は時間が経つとすぐにどこかへ移動してしまうとか。

規則性もなく、ランダムでこの階層のどこかに現れる。

それを聞いたユウトは、真っ先に食いついた。

「あっ! ならそれ、オレが探そうか?」

「ユウトが?」

怪訝そうに返すロルビスにユウトはうなずく。

「オレが魔法を使って探索(サーチ)的なのやればできると思う!」

女神は言った。聖剣シェリュイルガルはユウトのイメージした魔法を具現化できる、と。

魔法創造。それが勇者(ユウト)に与えられた何よりの強みだろう。

なら、それを活用するべきだ。だが───

「ユウトが魔法を………」

「う〜ん…………」

「大丈夫なのか? そんな事をさせても………」

───ロルビス達の反応は(かんば)しくない。

なにしろ高い魔法適性を持つユウトなのだ。

『魔法大爆発!』をやらかしたユウトなのだ。

正直、ただの探索(サーチ)系の魔法だとしても不安がある。

「どうする?」

「と、言われましても………」

ロルビス達は固まって小会議を始める。

もちろん議題はユウトに魔法を使わせるか否か。

「よし、ならこうしましょう」

しばらくの話し合いの後、ロルビスはそう切り出した。

「ユウト!」

「え? なに?」

ロルビスは少し離れた所にいたユウトに呼びかける。

そして、言った。

「授業の時間です!」



  □ □ □ □ □



「さあ、ユウト! 授業を始めますよ!」

拾った木の枝を支持棒のように持つとロルビスは、パシッ、と自分の(てのひら)に打ち付けた。

「は、はぁ………」

ユウトの魔法は威力が大きすぎる。なので詠唱によって『調整』するそうだ。

それにしても、ロルビスの教師姿が随分(さま)になっている。こんなイケメン先生ならきっと人気は高いに違いない。

まずは、とロルビスは始める。

「まずユウトが覚えるべきなのは形に囚われないことです」

「形?」

ロルビスは言う。


魔法の詠唱は、無形にして無限。

法則や基準に囚われない『自由』がなによりの強みだと。


「詠唱には決まった形がありません。『事象』『構成』、それらをどう扱い、どう組み込むかは術者次第。これにより引き出せる魔法の威力も術者次第ということです。さらに言えば、術者の魔法適性も問われるのですが、ユウトの場合は問題ないでしょう」

そのままロルビスは続ける。

「詠唱とは、すなわち魔法を発動するための『鍵』であり、同時に具現化しやすくするための『補助』。そして精霊へ向けた祈祷(きとう)なんです」

「へぇ〜」

今聞いたことを整理すると、魔法には『適性』と精霊言語の『語彙力』の二つの才能が必要ということになる。

どちらか一つがないだけで、魔法がまったく使えない“無能”と呼ばれてしまうのだ。


──かつて、ロルビスがそうだったように。


「ユウトは精霊言語はある程度覚えてますか?」

「ああ、いやまったく……」

『ある程度』どころか、ユウトはほとんど知らない。

知っているのはたったの四単語。


カマサハ(火炎)トヌラユ()クライ()ヴリクセ()


この四つだけだ。

異世界に転生する前に、女神に教わった。

最低限、この四つだけ覚えていれば問題はないと。

確かにユウトには『魔法創造』もあるし、詠唱省略があるので精霊言語を覚える必要はない。

魔道具を作る時も『付与』という魔法を創造(イメージ)してしまえば、術式だの、作り方だの、覚えなくていいのだろう。

詠唱の省略にはおそらく、新しい言語を1から憶える必要がないように、という意味もある。

実際、それで助かっている。ユウトもかつては平凡な少年。

周囲の人間と同じく、平凡に人生を生き、平凡に暮らし、平凡に勉強を嫌ってきた。

そんなユウトに『新しい言語を1から学べ』と言うのは酷だ。少なくともユウトにとっては。

「じゃあまずは『対象』を選びましょう」

「対象?」

意味がわからず、ユウトはオウム返しに尋ねる。

「ええ、今回は探索(サーチ)の魔法なので、何を探すのか、それはどこにあるのか、それを詠唱によって精霊に伝えるんです」

そこでロルビスはヘルヴィアの方を向く。

「ヘルヴィアさん、ここにあったという転送装置はどんなものでしたか?」

「えーっと、円形で……下半分は地中に埋まっていて、大きさは五メートルくらいでしたね」

「なるほど、(つち)に───ユウト、転送装置は土に埋まっているので、詠唱は土を『対象』とします」

「お、おう……土か…………」

土。土の呪文はヴリクセだ。

「………よし、なら最初は『ヴリクセ・ニニ(土の精霊よ)』から始めましょう。次に………そうですね、『ワヒメテス(我は求む)』や『ヤフタ(導け)』などを入れましょう」

「な、なるほど…………」

完全についていけなくなったユウトは、もうロルビスに全部任せることにした。




そうして試行錯誤した後、ユウトは聖剣を正面に構えながら、詠唱を開始する。


ヴリクセ・ニニフ(土の精霊達よ) ワヒヤフタ(我を導け) ムドハタクトアゥゾヨ(望む場所へ連れてゆけ)


詠い、唱える。

効果は探索(サーチ)

対象は円形で、五メートルくらいの大きさで、地に埋まっている。

ユウトは想像(イメージ)した。

「……………見つけた」

距離は少々遠い。だが走れば転送装置が移動する前に着くだろう。

ふぅ、と一息。こんなふうに集中して魔法を使うのは結構疲れるものだ。

ロルビス達からしてみれば、まだまだ魔力制御が甘いだろうが、ユウトはなんとなくコツが掴めた気がした。

「ユウト、場所はわかりましたか?」

「ああ、あっちだ」

ユウトは場所を指し示す。

それに従い、一行は歩き出した。


ようやく書けた魔法の解説。ちょっと無理矢理感……?




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