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29話 火力馬鹿(二人目)

迷路を抜けると、そこは広大な平原地帯だった。機動要塞の外形も大きかったが、ここはそれ以上の広さ。これもたぶん魔法がかかっているんだろう。

上空では疑似太陽が輝き、この世界を照らしている。

人工物から突然の天然物へ。

ここに来たことがあるユーミラとヘルヴィアの話によれば、外の世界と大きくかけ離れた動植物はいないらしい。

ちゃんとした生態系があり、弱肉強食の食物連鎖もある。創造主の趣味なのか、そういったところがかなり細かく造られているそうだ。

広大な大地に、草が生え、(やぶ)が茂り、木が立ち、果実が(みの)っている。それだけ、自然が豊かであれば、生き物の発育もまた良いわけで───

「一匹、二匹、三匹、四匹………………うん、いっぱい!」

───ユウト達は、魔物の集団に囲まれていた。

バッチバチに敵意を向けてくる白狼(はくろう)の群れ。真っ白な毛並みが雪のようでとても綺麗だ。

「あの毛色、大白狼(フェンリル)の血でも引いてるのか?」

ロルビスが言う。

(フェンリル。聞いた事あるようなないような…………)

ユウトは記憶の棚を漁るが、結局出てこなかった。

「いい機会ですし、ユウトの実力を見せてもらいましょうか」

「え?」

ロルビスは考えをひとまず頭の隅に置くとユウトに話を振った。

「勇者の実力、見せてもらえますか?」

スッと白狼の集団を指差すロルビス。

「え、お、おう」

と、応じるユウト。

………どうしたもんか。

ユウトには戦闘経験がまったくない。いざ、こうして敵と面と向かうと少し怖い。

「………どうした?」

「あ、いや……なんでもない」

こうなったら、やれるだけやってみよう。ユウトは聖剣を腰から引き抜くと、魔力を集めた。

想像(イメージ)するのは、火炎。シンプル、かつ強い。

漫画やラノベでも、なんやかんや炎使いは強い部類に入っていた。ならそれを参考にさせてもらおう。

魔力が炎へと変換されていく。それを──放つ。


ボンッ。


生み出された火球が、白狼の一匹に直撃した。

火球を正面から食らった白狼は「キャウンッ!」と悲鳴を上げて地面をのたうち回る。

「なんか、思ったよりショボい………」

「いやいやいや、ちょっと待って下さい。詠唱は? 詠唱はしないんですか?」

「え? しないけど?」

ロルビスが詰め寄ってきた。顔が近いのでユウトは仰け反る形になる。

女神がイメージすれば魔法は使えると言っていたが、もしかしてそれはすごいことなのか?

「ロル殿、今は戦闘中だぞ?」

「あ、そうでした」

状況も忘れてユウトに詰め寄ったロルビスはすぐ下がる。既にここは戦場であり、殺し合いの場だ。

だとすると、今のロルビスの行動は致命的な隙と言えた。

「話はこいつらを片付けてから、ですね」

腰からアヴウェノシアを引き抜くロルビス。同時に魔力を集める。

右手に込める魔力はアヴウェノシアの形を変えるために。左手に込める魔力は魔法陣を描くために。

ユーミラとヘルヴィアも魔力を高め、臨戦態勢へ。

布陣はユーミラとヘルヴィアが二人並んで先頭。その後ろにロルビスとユウトで、四角形を作るように並んでいる。

仲間の一匹が殺られたことで警戒心を強めた白狼の群れは、ロルビス達を囲んでゆっくりと近づいてくる。

合図があったのかはわからない。ただ、一匹の狼が駆け出した瞬間、それに追随して他の狼もロルビス達に襲いかかった。

「───フッ!」

まず最初の一匹を仕留めたのはユーミラ。愛用の大剣を振りかざし、白狼を真っ二つに切り捨てる。

切り返し、襲いかかってきた二匹目を切り捨てる。

続いてロルビス。魔力を得て変形したアヴウェノシアが、ロルビスに噛みつこうと大口を開けていた狼の喉を貫いた。その後、すぐさま狼の体内で変形する。

内蔵を貫き、(えぐ)り、形を変えた刀身は狼の脇腹から飛び出した。そのまま横にいた狼を貫く。

まとめて二匹の狼を串刺しにしたロルビスは、同時に左手の魔力を光らせる。

発光。輝きは複雑な形の魔法陣と成って、風の刃を吐き出した。

スパンッ、と後ろから来た狼の身体に浅くない切り傷を刻みつける。

その次にヘルヴィア。襲いかかってきた狼を、ゆっくりと、最小限の動きで躱す。そして、腰から抜いた剣ですれ違いざまに首を断ち切る。

乱雑なユーミラの動きと違い、ヘルヴィアの剣筋はとても綺麗なものだった。

(よし、オレも………!)

ユウトも、負けてられない、と気合を入れる。

再び、想像(イメージ)

今度はただ『炎』という曖昧なものではなく、明確に、鮮明に。

慣れない内はちゃんと詠唱した方がいいかもしれない。そう思ったユウトは、女神に教えられた簡単な呪文を使うことにした。

「────《カマサハ(火炎)》」

魔力の奔流(ほんりゅう)が一点に凝縮されていく。そしてそれは、膨大な熱量を持った炎の塊へ変貌した。

「へ、あっ、ちょ! ユウト! それはまず──」

魔法に完全に集中してしまっているユウトには、ロルビスの言葉が届かない。

やがてそれは完成する。

太陽のように、岩漿(マグマ)のように、大きく。熱く。

ユウトはそれを、放つ。


───ゴッッッ!


紅蓮。灼熱。猛火。業火。劫火。

その全てが、ロルビス達の視界を覆い尽くした。



  □ □ □ □ □



幸いとして、怪我人はいなかった。

途中で「アレ? これヤバいんじゃね?」と思ったユウトが放った魔法を中断(キャンセル)したからだ。

しかし、一部は焼け野原となり、素材として高く売れたかもしれない白狼は魔法を喰らって(ちり)一つ残さず燃えてしまい、生き残りはビビって逃げた。

「ユウト、これからはちゃんと詠唱をして、かつ魔力を抑えて、魔法を使ってください」

「はい……」

ヘルヴィアとロルビス(いわ)く、ユウトは魔力の制御がかなり甘いらしい。

つまるところ、練習不足。

魔力を体の一部のように使えるようになるまでは、詠唱ありで、かなり威力を抑えたものだけを使うように言われた。

しばらくは魔法を全力でぶっ放せない。


チート勇者!



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